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貸したお金を弁護士の僕ならどうやって返してもらうか-12(「確定的合意」)

【 自己紹介 】

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このブログでは、弁護士である僕が、もし仮に自分が紛争・トラブルの「当事者」となった場合に、「自分だったこうするだろうな」ということをお伝えしてしています。

僕自身、これまでの人生で大きな紛争・トラブルの当事者となったことがなく、今この瞬間、紛争・トラブルに直面されている方の苦しみや不安を代弁できるような立場にはないのかもしれません。

ただ、自分が紛争の当事者となった際の対処法を弁護士目線でお伝えできれば、それが、ご覧になった皆様のお役に立てるかもしれないと考えています。

あくまで、「僕だったらこうするだろうな」ということですから、ご覧になっている方々に必ずしも当てはまらないとは思いますが、僕のやり方をヒントに、自分なりに応用していただけたら、とても嬉しいです。

ご覧になっている皆様のお顔も名前も残念ながら知ることができませんが、アクセスしてくださり、ありがとうございます。本当に励みになっています。

【 今日のトピック:貸した金を返してもらう 】

今日も引き続き「貸したお金を返してもらう」についてお話していきます。

さて、昨日は口がすべりすぎてしまいました。話を本筋に戻します。

昨日のブログの最後で「確定的合意」というワードを出しました。

「確定的合意」は、「確定的合意には至っていなかった」という言い回しで使われることがほとんどです。

口約束や、LINEやメールなどで記録が残っている場合でも素人同士の約束だったりする場合に、「確定的合意に達していない」という主張がなされることがあります。

そもそも論から説明しますが、例えば、土地の売買契約を結んだ場合に、買主が購入代金を払ってくれない場合は、売主は購入代金の支払いを請求できます。

勝手にキャンセルはできません。売買契約を結んだということは、勝手にキャンセルしないと約束したことを意味するからです。

めちゃくちゃ当たり前のことを言っていますが、これ(=契約)って、人と人との約束に、法的なパワーを与えているんです。

購入代金の支払いを「法的に」請求できるということは、売主が購入代金の支払いを求める訴訟を提起すると、裁判官が、買主に購入代金の支払いを命じるということです。

法的なパワーって、これくらい強力なんです。改めて言うまでもありませんが。

しかし、これくらい強力なパワーを与える根拠は、約束でしかありません。「売買契約」といっても、それは「約束」でしかないのです。

ある土地があって、その土地の持ち主が、買主さんとの間で、一定の金額のお金と交換すると約束した。

ただそれだけなのですが、そういった約束があるだけで、最終的には、訴訟で裁判官が代金の支払いを命じることができるようになるのです。

それだけの法的なパワーが、約束のみを根拠に与えられます。これが現代社会の構造です。

だから、「約束」って、めちゃくちゃ強力なんです。

というか、これくらい強力なパワーを与えることを双方が覚悟している約束でなければ、なんというか、訴訟で支払いを命じなくてもいい気がしません?

ちょっと具体例の話をしますが、法律の業界に、「カフェ丸玉女給事件」という有名な事件があります。

この事件、今回の設定の事件とものすごく似ているんですが、「女給さん(今風にいえば「キャバ嬢」)」が、キャバクラに来たお客さんとの話で、そのお客さんがキャバ嬢にお金をあげる(贈与する)約束を取り付けました。

で、キャバ嬢は、この約束を理由に、約束の金額を贈与するよう求めたんですが、お客さんが贈与してくれなかったので、なんとなんと裁判まで提起して支払いを求めました。

キャバ嬢は最高裁(昔なので「大審院」と呼ばれていました)まで争いましたが、最終的にキャバ嬢の請求は退けられました。

このとき、最高裁は、「自然債務」という理屈を用いました。

つまり、お客さんが自ら進んでキャバ嬢に贈与すれば、それは贈与契約に基づく支払いとして有効だけれども、キャバ嬢は、その支払いを裁判で請求することはできない。

こういった理屈を判決文に明記したので、この判決はめちゃくちゃ有名になりました。大学の法学部に入学したら、1年生で学ぶくらい有名です。

ただ、「自然債務」なんて理屈を持ち出す必要があったのかは少し微妙で、この判決文にも書かれていますが、キャバ嬢とお客さんとの約束は、裁判上の請求権を付与することを目的としていなかった、という理屈で十分なのかなと思います。

つまり、この「贈与する」という約束は、確かにあったのかもしれないけれど、その約束は、訴訟で裁判官が支払いを命じることができるくらいのパワーを与えるものではなかった。

それくらいのパワーを与えることを、どちらも覚悟していなかった。

そういった理屈で、訴訟で支払いを求めることはできない、という風に結論づけることができると思います。

この理屈(訴訟で支払いを命じるくらいのパワーを与えるものではなかった)を持ち出すときに、「確定的合意」というワードを使うことがあります。

「確定的合意」に達していなかったから、訴訟で支払いを命じることはできないとか、そういう風に使います。

(この「確定的合意」というワードは、かなり意味が広く、「詳細がまだ決まっていなかった」とか、そういう意味でも使います)

この「確定的合意」の理屈を、今回の設定では、キャバ嬢から主張される可能性があります。

キャバ嬢とすれば、僕との間で、400万円を返済する約束をしたことは認めざるを得ませんが、ただ、それは「確定的合意」ではなかった。

つまり、裁判で支払いを命じられるだけの合意には達していなかった。

そういった主張が考えられます。

確かに、僕は訴訟を念頭にキャバ嬢と約束しましたが、キャバ嬢は訴訟なんて考えもしなかったでしょう。でも、キャバ嬢が訴訟を想定していなかったからといって、確定的合意にならないわけではありません。

今回僕は、残り400万円の支払いを口約束しただけでなく、LINEで文章にも残しました。

・残金が400万円(新たに渡した20万円を含めると420万円)

・毎月20万円ずつ返済する

・20万円の返済の結果残金が100万円まで減ったら残り100万円は返済しなくていい

この約束がLINEでも残っていますから、いくら、キャバ嬢が「確定的合意ではない」と主張しても、その主張はなかなか通らないと思います。

今日はこのへんで。

それではまた明日!・・・↓

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