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#481 離婚届不受理申出:離婚届を事前に阻止する

【 自己紹介 】

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【 今日のトピック:離婚届不受理申出 】

今日は,「離婚届不受理申出」という,なんか難しそうなワードについてお話したいと思います。


まあ,漢字が難しそうなだけで,内容は簡単です。

「離婚届」を「受理しないよう(不受理)」に,あらかじめ役場に「申し出」ておく。これが「離婚届不受理申出」です。

さて,離婚するには離婚届を提出する必要があることは,多くの方がご存知だと思います。

そして,離婚届の提出が「必要」なだけでなく,離婚届を提出すれば,それで「十分」でもあるのです。

離婚届を提出しさえすれば,離婚は成立し,戸籍に離婚が記録されます。

もちろん,きちんと方式に従って離婚届を書かなきゃいけませんが,方式を満たしていれば,それでいいのです。

夫と妻それぞれの欄に署名押印がなされていて,証人の欄も埋められていれば,それで離婚届の方式は一応満たしています。

そして,ここからが大事なのですが,役場の職員は,離婚届の署名押印を,本当に本人が離婚を了承して書いたのかどうか,判断しません。

「形式的審査」なんて呼んだりしますが,役場の職員は,署名押印がきちんとなされていて,それを確認したら,それ以上,「この署名押印は本当に本人が書いたのか?」なんていちいち考えないし,そもそも判断してはいけない仕組みになっています。

本人確認を要求してもいいのでしょうが,届出のたびに本人確認するのも面倒ですし,何より,役場に本人確認できる体制が整っていません。

というのも,「本人確認」というのは,言うほど簡単じゃないんです。

離婚の場面で,「本人確認」が何を意味するかというと,「本当にこの人は離婚するつもりがあるのか?」を吟味するということです。

まあ多くのケースは,役場でも判断できるでしょうが,判断できない場面が必ず出てきます。

例えば,生活保護を受給する目的で離婚しようと思って離婚する場合,この離婚届を受理していいでしょうか?

離婚届に目的を書く欄はありませんが,ただ,離婚は「離婚意思」がないと無効となってしまう,と法律に書かれています。

「本人確認をする」ということになると,「離婚意思があるかどうか」も確認しなきゃいけなくなります。

だって,離婚意思がない離婚届は無効なんですから,離婚意思がない離婚届を受理するわけにはいきません。

「本人確認」というのは,これくらい重たい責任を負うことを意味するんです。

今は,「本人確認」,つまり「離婚意思の確認」は,裁判所が行っています。

役場は,「形式的審査」で,「離婚意思」までは確認しません。だから,「離婚意思」があったかどうかが後に問題となることがあって,それは,裁判所が専門的に判断しています。

そして,「離婚意思」は,裁判所や弁護士が専門とする分野です。司法試験に合格するようなスーパーエリートたちが,数か月も書面で主張と反論を繰り返しながら結論を出しています。

役場の「形式的審査」に対して,「実質的審査」と呼ばれますが,「本人確認」に伴う責任って,これくらい重たいのです。

「形式的審査」ではなく,「実質的審査」となった途端,これくらい重たい責任が発生してしまうのです。

「本人確認」の責任を役場が負ってしまうということは,「本人確認」をしたら,それ以降,結論を覆せない,ということになります。

裁判の結論を覆せないのと同じです。

だから,役場に,ここまでの責任は負わせられないのです。弁護士や裁判官レベルの「本人確認」スキルを要求できませんし,いちいちそのレベルの本人確認を要求していては,せっかく「届出」だけで離婚できるという,めちゃくちゃ便利なシステムが絵に描いた餅となってしまいます。

だから,役場では,「本人確認」しないんです。届出だけあれば,離婚を受理して,戸籍に離婚が登録されます。

しかし,この「形式的審査」の弊害が指摘され,若干,戸籍法が改正されました。

もちろん,役場に,裁判所や弁護士レベルの「本人確認」は要求していませんが,少なくとも,離婚届を持参した人に対し,運転免許証などを見せるよう要求しなければいけない,と今の戸籍法には書かれています。

ただ,離婚届を持参していないもう一方の配偶者に対しては,本人確認を要求していません。

本人確認をしないまま離婚届を受理し,その後,離婚届を受理したことを通知する,という風になっています。

だから,事前に本人確認されるのは,離婚届を持参した人だけで,その人の本人確認が済んでしまえば,戸籍上,離婚が成立してしまいます。

ただ,勝手に離婚されてしまった場合,離婚の無効を裁判で実現することはできます。

とはいえ,裁判することになれば,弁護士を使わなきゃいけないケースも多いでしょうし(裁判をやることになれば,最終的に勝ち負けが出てしまいます。もし,弁護士を使わなかった結果,負けてしまうと,その負けを後で覆すことはできません),余分な手間やお金がかかってしまいます。

そこで,離婚届を受理しないよう,事前に申し出ておく制度が戸籍法に定められています。

一方配偶者に無断で離婚届が出されたとしても,法的には無効な離婚ですが,その「無効」を主張するにはかなり手間とお金がかかってしまうので,それを回避するために,事前に離婚届不受理を申し出ておくわけです。

なお,離婚届不受理を申し出ておいても,離婚調停の調停調書や,離婚訴訟の判決があれば,市役所は離婚を受理してくれるので,ご安心を。

【 まとめ 】

離婚届の不受理は,まだまだあまり知られていないような印象があります。

勝手に離婚届を出されても,法的に無効ならそれほど心配いらないのでは?という意見もあると思います。

しかし,「勝手」なのかどうかって,一概にわからないのです。

一方は,「離婚に承諾してくれた」と考え,もう一方は「離婚に納得していない」と,主張が食い違うことも多いです。

その場合,離婚届が提出された,という既成事実が作られてしまうと,「離婚に納得していない」と主張する側にとっては,不利な事情になってしまうと言わざるを得ません。

特に,親権を争っている場合に,片方が,勝手に親権者を自分に指定して離婚届を提出し,その離婚届を理由に「親権者は私に決まりました」と主張してくると,困ったことになることもあります。

離婚届を勝手に提出されてしまう,というのは,それなりにあり得ます。

離婚の話し合いが済んでいない場合は,離婚届の不受理申出を検討されてもいいのではないでしょうか。

それではまた明日!・・・↓

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