#80 「法人」の話

「法人」って聞いたことある方も多いと思います。

でも,この「法人」ていう言葉について,考えたことがある方は,あんまりいないと思います。

(普通,そんなこと考えない・・・)

「法人って会社のことでしょ?」

「会社が納める税金を「法人税」って呼ぶから,法人って会社のことでしょ?」

くらいの理解があれば,普段の生活で何か困ることなんてありません。

でも,わざわざ「会社税」じゃなくて「法人税」って言うのはどうしてなのか,そもそも「法人」というワードを使う理由は何なのか,少し書いてみたい思います。

また当たり前のことを説明しますが,私たちのような人間は,例えば,自動車を買って自分のものにしたり,預金口座を開設してお金を預けたりすることができます。

どうしてそういうことができるのか,考えたことありますか?

(まあ,考える必要もないですよね(笑)。)

購入した自動車が自分の財産である

銀行に預けたお金が自分の財産である

ということを,自分の「権利」として,社会の人みんなに主張できるのは,どうしてなんでしょう。

ここでいう「権利」というのは,「財産権」のことです。

まあ,もちろん,歴史的な話はありますよね。

さかのぼれば,1215年のマグナカルタまでさかのぼりますよね。

これは,それまで王権に服従するしかなかった貴族たちが,国王も法の下にあり,法や裁判の根拠なく国民(貴族)の権利(財産権)を奪うことができないことを,国王に認めさせたものです。

このマグナカルタが,後の名誉革命やアメリカ独立戦争につながり,「権利」というものが認められていくようになったのですが,まあ,僕も詳しく経緯を語れるほど知識はないので,これくらいにしておきます。

他にも,共産主義では,基本的に「財産権」ってないですよね。

土地なんかの財産は,国の所有です。だから,日本みたいに「私が買ったこの土地は,私の財産です」とは言えないんです。共産主義だと。

この「財産権」が日本では認められてるわけですが,この根拠は,まずは憲法に書かれています。

憲法29条:財産権はこれを侵してはらなない。

と書いてあります。だから,日本では財産権が保障されていて,共産主義じゃないんです。

まあ,憲法が法律よりも「偉い」ので,これが確かに根拠なんですが,僕は,「民法」にも着目してほしいのです。

民法3条1項:私権の享有は出生に始まる。

うわぁ。憲法と違って,民法の条文は,めちゃくちゃ意味不明になりましたね。言い方も,なんか聞き慣れない感じです。

どういう意味なのか,説明します。

まず「私権の享有は」と書かれています。

「私権の享有」って,誰も聞いたことないと思いますが,これって,「権利を持っている」という意味ですね。

これは民法の条文なのですが,民法というのは,憲法で言うところの「財産権」について書かれています。だから,「私権」というのは「財産権」のことですね。「自分でお金を出して買ったモノを自分の財産として主張できる権利」が「私権」です。

そして「享有」というのは「持つ」くらいの意味です。

だから「私権の享有」って,「財産権」を「持っている」ということです。

で,その「私権の享有」が「出生に始まる」ということですから,出生=生きて産まれ出た時点から,「私権の享有」が始まっているよ,ということになります。「始まる」わけなので,生きて産まれ出た後,その後,生きている限り,ずっと「私権の享有」が続くということになります。

結局,「私権の享有は出生に始まる」がどういうことかというと,

生きて産まれ出た時点から,生きている間ずっと,財産権を持つことができるという意味になります。

そうなんです。

人は,生きていれば,財産を持つことができるんです。

これを難しい言い方で「財産権の主体となることができる」とも言います。

「私権の享有は出生に始まる」と民法に書いてあるから,人間というのは,生きている限り,どんな財産であっても,それを権利として持つ主体になることができるわけです。

そういった,財産権を持つ主体になれることを,「権利能力」と呼びます。

もう少し言い方を変えると,財産権の帰属主体になれる資格を「権利能力」と言います。

財産権を持つ主体になる資格があると「権利能力がある」と言うわけですね。

ちょっと難しかったかも知れませんが,結局,「私権の享有」というのは,「権利能力」のことなんですね。

で,その「権利能力」というのが,「出生に始まる」ということなので,結局,人間というのは,生まれながら,生きている限り「権利能力」がある。

つまり,人間は,産まれ落ちて生きている限り,それだけで,「権利能力」=「財産権の帰属主体となる」ということができるわけです。

じゃあ,会社ってどうなんでしょうか?

よく,会社の名前で取引していますよね?

僕がお金を預けている銀行も会社です。

会社って,「権利能力」あるのでしょうか?

「権利能力」がないとどうなるんでしょうかね。

例えば,銀行の場合だと,権利能力がないと,お金が預かれません。

というのも,銀行から見ると,私達預金者が預けたお金を,預金者がお金を引き出そうとしたときに支払う「義務」があることになりますが,「財産権」というのは,こういった「義務」のようなマイナスの財産も含みます。

そうすると,「義務」の帰属主体になるにも,「権利能力」が必要なんですね。

でも,銀行に権利能力がないと,「義務」の帰属主体になれません。

だから,「義務」が発生しようがないんです。

じゃあ,権利能力は,どうやって手に入るか?

これが,「法人」という話につながってきます。

実は,「法人」というのは,生身の人間(「自然人」と呼ばれます)以外に,権利能力が認められた存在のことを言うんですね。

つまり,「法人」というのは,生身の人間(自然人)じゃないのに,人格=権利能力が,各種の法律によって認められている存在のことで,だから,「法律によって『人格(権利能力)』が認められた」を略して「法人」と呼ばれているのです。

でも,法人って,生身の人間じゃないので,見えません。

「いやいや,本社ビルがあるから,そのビルこそ,法人の正体でしょ?」

と思う方もいるかもしれませんが,違います。

本社ビルは「法人」じゃないです。

本社ビルは,ただ,法人が「持っている」だけです。

法人そのものじゃない。

どれだけ目をこらしても,「法人」は見えません。

だって,この世には実在していませんから。

まさに,「法人」というのは,観念上の存在です。

人間の想像力で生み出した存在です。

サピエンス全史(こちら)で,人間の想像力で生み出された「宗教」とか「虚構」とか言われていますけど,まさにそうです。

(ちなみに,↑のサピエンス全史は,めちゃくちゃおもしろいです。私たち「ホモ・サピエンス」という種が,どうやって現代社会のような仕組みを作り出したのか,人類学の観点から,ホモ・サピエンスの誕生以来の歴史が書かれています。作者はイスラエル人です。)

その観念上の存在に,「人格」=権利能力を与えてしまっているのが,「法人」ということです。

観念上の存在でしかないのに,

預金口座を開設して,お金を預けたり,逆にお金を預かって義務を負ったり,そんなことができているわけです。

観念上の存在であっても,「権利能力」があっていい,つまり,財産を持ったり義務を負ったりしていいんだと,民主主義的に決まったから,こういう仕組みが法律上認められているわけです。

ここで,「法人」というワードの疑問には答えられましたね。

そもそも,生身の人間であれば,生まれながらにして,財産を持ったり義務を負ったりできる資格=権利能力があるけれども,それ以外にも権利能力を認めてもいいんじゃないか,ということで,人間の想像力をフル活用し,「法人」という存在,つまり,実態はないけれども,法律上は人格=権利能力が認められた存在を生み出した。

「法律上人格が認められた存在」なので,これを略して「法人」と名付けたということです。

で,「法人」は,会社だけじゃないんですね。

観念上の存在に「人格」=「権利能力」を与えたら,全部「法人」になっちゃうんです。

権利能力の与え方はいろいろあって,その中の1つが会社法です。会社法に書かれている方法で権利能力が与えられたものが「会社」です。

しかし,世の中には,「一般社団法人」とか「公益法人」とか,「〇〇法人」がいろいろありますよね。

これらは,権利能力を与えている法律の違うので,法人の呼び名が違っているのです。法人というのは,あくまで観念上の存在なので,権利能力を与えてくれる法律がないと始まらないんですね。だって,権利能力がないということは,権利も義務もなにも,それらの帰属主体になれないということですから。

だから,権利能力を与えてくれる法律の名前にベッタリで,その法律の名前をとって「〇〇法人」と名付けられるわけです。

どういう法人名を名乗らなきゃいけいのかも,その法律に書いてあります。

で,もう少し話を進めますが,法人の権利能力って,実は,限界があるんです。

次回は,ここから始めましょう。


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