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#406 結構珍しい土地の紛争に直面しています-②

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

弁護士古田博大の個人ブログ(毎日ブログ)へようこそ。

このブログでは,2017年1月に弁護士に登録し,現在弁護士5年目を迎えている私古田が,弁護士業界で生き残っていくために必要不可欠な経験と実績を,より密度高く蓄積するため,日々の業務で学んだこと・勉強したこと・考えたこと・感じたこと,を毎日文章化して振り返って(復習して)います。

僕の経験と実績を最も届けなければいけないお相手は,このブログを読んで,僕のお客さんとなってくださるかもしれない方々,つまり,法律のプロではない皆さんだと思っています。そのため,日々の業務・経験がこのブログのトピックになっているとはいえ,法律のプロではない方々にわかりやすく伝わるよう,心がけています。

後戻りの必要なく,スラスラと読み進められるようにも心がけていますので,肩の力を抜いて,気軽な気持ちでご覧くださるとと大変嬉しいです。

【 今日のトピック:必要費の償還請求(昨日の続き) 】

さて,昨日は「必要費の償還請求」という聞き慣れないワードについて説明してきました。

「必要費の償還請求」は,何も土地に限ったものではないんですが,僕が今直面している事件が土地絡みなので,土地を例に説明しました。

土地所有者(地主)には,土地の管理責任(他の人に迷惑がかからないよう,土地を管理する責任)を負っています。だから,土地の管理に必要な費用は,地主さん本人が負担しなきゃいけません。

例えば,自分の土地が崩れそうになっていて,隣地に迷惑がかかりそうならば,地主さんが自分の費用で,土地が崩れるのを防止する工事を実施しなきゃいけません。

まあ,こんな大それたことでなくても,土地の草刈りをしたり,流れた土砂を補充したり,そんなことも「土地の管理」に含まれます。

結局,土地の管理に必要な費用が「必要費」なわけで,先ほど説明したとおり,この費用は,本来,地主さんが自分で負担しなければいけません。

でも,地主さんが以外の人が土地を使っている場合は,ちょっと事情が変わってきます。

ここからが今日の話になります。

昨日は,土地を「勝手に使われた」場合も,勝手に使っていた人が,「必要費(土地の管理費用)」を支出したのであれば,地主さんは,その費用を支払う必要があるということを説明しました。

ちなみに,「勝手に使われた」ではなく,「地主さんの承諾を得て土地を使っていた」場合は,借地料が発生しているかどうかで話が変わってきます。

借地料が発生していない=タダで土地を使わせてもらっている場合,土地の管理費用(必要費)は,借主の負担になります。

しかしながら,借主が負担する必要費は,「通常の必要費」に限られます。つまり,日常的に必要となる費用(例えば,草刈り)は,借主の負担なのですが,臨時に必要となる費用(10年に1度の大雨で土砂が流れ出て,その補充に必要な費用)は,地主さんの負担となります。

タダで貸している場合は,必要費が「通常」かどうかで,地主さんの負担となるか,借主の負担となるか変わってきます。

次に,借地料を支払っている場合は,原則として,地主さんが必要費を負担します。

つまり,土地の管理に必要な費用は,タダで貸している場合とは違って,地主さん本人が負担し続けることになります。

でも,多くの場合,契約書で,管理に必要な費用は借主負担とすると決められていると思います。

民法の原則では,借主のせいで必要となった場合を除いて,管理費用は地主さんの負担と決まっていますが,この決まりは,契約書で変更してもいのです。

「じゃあ何のための法律なんだよ!」と思われるかもしれませんが,そういうもんです。

これ,「強行規定」と「任意規定」という区別に関わる話です。ちょっと難しいですが説明しますね。

「任意規定」というのは,法律とは別の約束事をしてもいい,という条文を意味します。

「管理費用は貸主(地主さん)の負担とする」という条文は,まさに,「任意規定」です。この条文とは別の約束事(管理費用は借主負担とする)をしてもいいからです。

法律とは別の約束事をしても,それが「法律違反」「違法」にはなりません。

逆に,法律とは違う約束事をすると,「法律違反」「違法」となる条文があります。それが「強行規定」です。

例えば,労働基準法に定められている,「1日あたりの労働時間の上限が8時間」という条文は「強行規定」です。これに違反する約束事(例えば,1日あたりの労働時間の上限は10時間,という契約)は「法律違反」「違法」です。

ちょっと脱線してしまいましたが,話を元に戻します。

借地料を支払って土地の貸し借りをしている場合,民法では,土地の管理費用は地主さんの負担となっていますが,多くの場合,契約書で,この民法の規定が修正され,土地の管理費用は借主負担となっている,という話でした。

さて,関係ない話が続いてしまいましたね(汗)。

タダで貸そうが,借地料をもらって貸していようが,いずれも,土地の使用を地主さんが承諾しています。

僕が直面している事件は,地主さんの承諾がないまま土地を勝手に使われた,という話でした。

昨日説明しましたが,「勝手に使われた」場合であっても,勝手に使っていた人が,土地の管理費用を地主さんに代わって支出した場合,地主さんは,代わりに支出してもらった土地の管理費用を,お金で支払う必要がある,ということでした。

でも,なんか,腑に落ちませんよねぇ。

地主さんとしては,土地を勝手に使われ,頼んでもいない土地の管理費用を,「代わりに支払ってあげたんだから返せ!」と言われるのは,なんか釈然としません。

確かに,土地の管理費用は本来地主さんの負担ですから,代わりに管理費用を支出してくれたおかげで,自分の支出は回避できていたわけで,その回避できたぶんをお金で支払うのは,理屈としてはよくわかるんだけどなぁ・・・。

地主さんとしては,こういう思いに駆られると思います。

たぶん,この地主さんの気持ちの裏には,「お前,勝手に土地を使っていた立場で,何を言っているんだ!」という感情的な気持ちがあると思います。

この感情面は否定できませんが,この感情論だけでは,「管理費用は本来地主さんの負担で,代わりに管理費用を負担してもらったんだから,管理費用ぶんを返さなきゃね」という理屈を崩すことはできません。

感情論ではなく,もう少し冷静に考えてみましょう。

「勝手に使われた」の中身を,もう少し具体的に見ていきましょう。

「勝手に使われた」ということは,勝手に使っていた人が,その土地を何かしらの利益を得るために使っていたわけですよね。

土地の使いみちは,いろいろあります。

昨日も例に出しましたが,土地があれば,その上に建物を建てて住むことができます。

地主さんに無断で土地に建物を建てて,住むことができたら,こんなに良い話はありませんよね(笑)。

この場合,「勝手に使われた」は,「勝手に家を建ててその中に住まれた」ということになります。

「住む」という,自分の利益のために土地を利用しておいて,いざ土地を返したら,「管理費用を返せ!」というのはおかしいですよね。だって,その「管理費用」は,「住む」という自分の利益にもなっていたわけですから。

僕が直面している事件は,昨日も説明しましたが,農地(畑)です。

勝手に土地を使っていた人は,その土地で野菜や果物を育てて,収穫していました。

そのように農作物を栽培するにあたって,草刈りなどの土地の管理が必要になるのは当たり前です。

つまり,「土地を勝手に使われた」という場合,勝手に使っている本人は,自分の利益のために土地を使っている場合がほとんどだ,ということです。

自分の利益のために土地を使っているのであれば,当然,その土地の管理費用は,自分が利益を得るために必要な費用です。

それを,「地主に代わって支払ってあげたから返せ!」というのは,少しおかしいですよね。

そして,この「おかしいよね」という部分は,民法にも書いてあります。

ちょっと法律独特の言い回しなんですが,ざっくりいうと,「果実を取得した場合は,土地の管理費用(=必要費)を返してもらえない」と書かれています。

この「果実」は法律用語で,一般的な意味とは全然違います。

法律用語の「果実」は,リンゴやみかん,バナナなどの「果実」ではありません。

土地を例にとれば,その土地から得られる「収益」すべてを「果実」と表現します。

だから,りんご畑に実るりんごの実も,当然「果実」ですが,土地を誰かに貸して得られる借地料も「果実」に含まれます。

りんごの実のように,土地から自然に得られる果実を「天然果実」,借地料を「法定果実」なんて分類したりすることもあります。

先ほどの「果実を取得した場合は,土地の管理費用(=必要費)を返してもらえない」という条文に戻りますが,結局,この条文によれば,土地から果実を取得していた場合,土地の管理費用は,土地を使っている人が利益を得るために必要となる費用なんだから,「地主の代わりに支払った」のではなく,「自分のために支払った」んだから,地主さんに返してもらうことはできない,ということになります。

僕の扱っている事件の場合,農作物を栽培して取得していますから,「天然果実を取得した」ことは間違いありません。

そして,この条文に書かれている「果実の取得」は,もちろん,「天然果実」だけでなく,「法定果実」も含まれます。

だから,誰かに土地を貸して,借地料をもらっていれば,それも「果実を取得した」に該当します。

そして,誰かに貸していなくても,土地の使い方が,借地料を支払ってしかるべきなものであれば,「借地料を支払ってしかるべき」なのに「借地料を支払っていない」んだから,結局,借地料を支払わずに済んだぶん「得」をしているわけで,その「借地料を支払わずに済んだ」という「得」も,「果実の取得」に該当します。

そうすると,僕の扱っている事件では,農作物を栽培して収穫したことが「果実の取得」に該当するだけでなく,本来,農作物を栽培して収穫するためには,その土地が他人の土地なので借地料を支払わなきゃいけないのに,借地料を支払っておらず,その分得をしているから,この「借地料を支払わずに得をした」のも,「果実の取得」に該当することになります。

結局,「果実を取得」しているので,土地の管理費用(必要費)を返してもらうことはできない,というのが,今のところの結論です。

この結論を踏まえると,土地の管理費用(必要費)を地主さんから返してもらえるケースって,めちゃくちゃ少ないような気がします。

土地を使う場合,①地主さんから承諾を得ているかどうか,②借地料を支払っているかどうか,で場合分けできます

ⅰ承諾を得ていない(=勝手に使っている)

ⅱ承諾を得ているけれどもタダで使っている

ⅲ承諾を得ていて借地料も払っている

この3パターンがあります。

ⅰのパターンが,僕が今扱っている事件ですが,この場合,土地の管理費用(必要費)は,地主さんから返してもらえる(必要費の償還を請求できる)はずなんですが,しかし,地主さんの承諾を得ていないとはいえ,土地を「使っている」ということは,何かしら自分の利益を得るために使っているはずです。

そうであれば,僕の事件のように,農作物を栽培したりして,何かしらの「果実」を取得しているはずです。しかも,「本来借地料を支払ってしかるべきなのに支払っていない」のも「果実の取得」に含まれるのですから,何かしら自分の利益のために土地を使っているのであれば,ほとんどの場合に「借地料を支払ってしかるべきなのに支払っていない」と評価されてしまうことになるでしょう。

したがって,地主さんの承諾を得ず,勝手に土地を使っている場合に,土地の管理費用(必要費)を地主さんから支払ってもらえるケースはかなり少ないと思います。

次に,ⅱ(地主さんの承諾はあるけれど,タダで使っている)です。

この場合,民法に,土地の管理費用(必要費)は借主(土地を使っている人)の負担と書かれていますから,地主さんに必要費を支払ってもらうことはできません(臨時の必要費は支払ってもらえます)。

最後にⅲ(地主さんの承諾はあるし,借地料も支払っている)です。

この場合,民法では,土地の管理費用は地主さんの負担となっていますが,契約書で修正され,借主負担となっている場合が多いということは,先ほど説明しました。

そうすると,結局,土地の管理費用(必要費)の償還を請求できる場面って,ⅰだと,「土地を勝手に使っているのに,自分の利益のためには使っておらず,あくまで地主さんのために管理費用を支出してあげた」パターンか,もしくは,ⅲで,「土地の管理費用は地主さんの負担とする」という民法の原則が契約書で修正されていないパターン,の2つに限られるようです。

こう考えると,「必要費の償還請求」が珍しいのもうなづけます。

請求できる場面がほとんどないからです。

なるほどなるほど。自分で自分の勉強になりました。

それではまた明日!・・・↓

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