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#430 預金は誰のモノ?:預金者の認定-2(名義人以外が預金を払い戻せるか)

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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【 今日のトピック:預金者の認定 】

今日も,昨日に引き続き「預金者の認定」についてお話したいと思います。

さて,昨日は,過去に僕が依頼を受けた事案(預金者が誰かが問題になる事案)について説明しました。

少しだけおさらいすると,ある女性(80代)が息子名義で預金口座を開設し,その口座に入金を繰り返してきたのですが,その預金を,銀行が引き出させてくれない,という話でした。

口座を開設した当初は,おそらく,入金も出金もできたのでしょうが,今の時代は,名義人本人にしか銀行は出金させてくれません。

本人確認が厳しい時代ですからね。

その女性としては,自分で出金できず,息子さん本人しか引き出せないのであれば,息子さんに引き出してもらって,その引出金を全部息子さんに使ってもらおうと思い,息子さんの所在調査と息子さんへの預金の受渡しを依頼されました。

あと,一応言っておきますが,この女性,通帳も銀行印もキャッシュカードも紛失されていたので,残高すら正確に把握できない状態でした。だから,キャッシュカードで引き出すとか,そういう方法で出金するのはムリでした。

息子さんの所在も判明し,預金の受渡しを申し入れましたが,息子さんからは,この預金を受け取ってしまうと,物心がつく前から育ててくれた義母への不義理となってしまうという理由で拒否されてしまいました。

これを踏まえて,この女性と話し合った結果,自分で預金を払い戻すことにしました。

この預金,かなり古い預金だったようで,出金しないままだと近いうちに消滅してしまうとの通知が銀行から届いていました。

だから,消滅してしまうよりは,自分で払い戻したほうがいい,という話になりました。

ただ,銀行は,ゼッタイに引き出させてくれません。

銀行に登録されている預金名義はあくまで息子さんで,この女性ではないからです。

そこで,銀行に対して,預金の全額払戻しを求める訴訟を提起しました。

この女性が原告となって,息子名義の預金全額の払戻しを求めたわけです。

この訴訟で,「預金者が誰か?」が問題となったわけです。

「訴訟」ですから,銀行が自発的に払い戻すかどうかは関係ありません。

裁判官が預金の全額払い戻しを銀行に命じれば,銀行は払い戻すしかありません。

じゃあ,裁判官が預金の払戻しを命じることができるでしょうか。それが,問題です。

法的に言えば,銀行は,「預金者」に対しては,預金の払戻しを拒めません。

銀行と預金者との間では,「消費寄託契約」という契約が結ばれているのですが,これは,預金者が銀行に対して,自分のお金を「寄託」する,つまり「預けておく」という契約です。

しかも,「消費寄託」なので,預けたお金は,銀行が「消費」していい,つまり「使っていい」というのが,預金者と銀行との関係なんですね。

この点も,豆知識として知っておくといいかもしれません。

・預金者は銀行にお金を預けているけれど,銀行はそのお金を使っていい

これが,銀行と預金者との関係です。

ただ,銀行は,預金者が返還を求めてきた=預金の払戻しを求めてきたら,払い戻さなきゃいけません。

預金以外の「消費寄託」であれば,その契約で,預けた物品の返還期限が書かれていれば,その返還期限までは返還しなくてもいいんですが,銀行と預金者との関係は,そうなっていません。

預金者が払戻しを請求したら,銀行は,常に払戻しに応じなければいけません。

まあ,銀行との間で,返還期限を特別に決めていたら話は別ですが,よくある普通預金や定期預金であれば,銀行は,預金者からの払戻請求を拒否することはできません。

定期預金でも,満期前であることを理由に払戻しを拒否することはできません。

満期前であれば,利息をつけられないことはあるでしょうが,とはいえ,元本の払戻しを拒否することはできません。

だから,先ほどの事案に戻ると,この女性が,「預金者」であれば,銀行は払戻しを拒否できないのです。

預金についた利息まで含め,きちんと耳を揃えて,払い戻さなきゃいけません。

この女性が「預金者」であれば。

じゃあ,「預金者」かどうかをどうやって決めるかというと,それは「中のお金は誰が出したの?」という観点です。

つまり,「預金者は誰?」=「中のお金は誰のもの?」なのです。

このことを明確に示した最高裁判例が既にあります。

この最高裁の事案では,ある人が,高い利率を目当てに,知り合いが加入している職員組合にお金を預けることにしました。ただ,その職員組合は,当然ながら,加入している組合員しか口座を開設できないので,知り合いに名義を貸してもらい,その知り合いの名義で預金口座を開設し,定期預金としてお金を預けました。

しかし,この知り合いが,実は,この職員組合からお金を借りていて,この借金と,↑の定期預金が相殺されてしまい,定期預金が消えてなくなったという扱いにされてしまいました。

このひとは,自分のお金がなくなってしまったことに慌てて,職員組合相手に訴訟を提起し,↑の定期預金の払戻しを求めました。

そうしたところ,最高裁は,この人の払戻請求を認めました。その理由として,↑の定期預金は,名義は違うけれども,中身のお金を出したのはこの人だから,という点を指摘していたのです。

この最高裁判決は昭和52年(1977年)に出されたもので,かなり古いですが,今でも生きています。

だから,「預金者が誰か?」という問いに対しては,「中身のお金を出した人です」という答えになる,ということです。

なんかめちゃくちゃ当たり前の話なんですが,預金名義と中身のお金の出どころが違うという事案は,僕も経験しているわけで,この「当たり前」をきちんと最高裁が示してくれているのは,素直にありがたいです。

この最高裁判例に照らすと,僕が依頼を受けた女性は,まさに,この最高裁の考え方が当てはまります。

息子さん名義とはいえ,その預金口座を開設して,入金を繰り返してきたのはこの女性(母親)なのですから,「預金者」は間違いなく,母親です。

息子名義とはいえ,預金者は母親なんです。

だから,銀行は,「預金者」である母親の払戻請求を拒否できません。

法的には,こういう結論となります。

ただ,実際は,訴訟を提起したら,預金者が母親であることを銀行が認めてくれて,払戻請求に応じてくれました。

その結果,判決とはならず,和解で解決することができました。もちろん,預金は,利息も含めて全額払い戻すことができました。

こういう結果となって,本当によかったです。

ちょっと補足というか,世間話なのですが,この「銀行」,実は,民営化前の郵便局でした。

民営化後,郵便局が運営していた銀行業務が「ゆうちょ銀行」に引き継がれたことは有名ですが,どうやら,民営化前の預金は,「ゆうちょ銀行」に引き継がれたのではなく,「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構」という独立行政法人に引き継がれたようです。

民営化前の郵便局は,所轄官庁が郵政省でしたから,郵便局にお金を預ける=郵政省にお金を預ける,でした。

(ちなみに,郵政省=国ではありません。郵便貯金は,郵政省が独立予算として保有する聖域で,大蔵省も手出してきませんでした。郵政省を民営化するのは,郵政省の「聖域」を壊滅に追い込み,反射的に大蔵省の管轄を増やす,という意味がありました。郵政省は,田中角栄以降,「特定郵便局」が自民党の大票田となっていましたから,郵政省の民営化は,田中角栄派閥(田中派)を「ぶっ壊す」ものでした。この郵政省民営化を推し進めた小泉純一郎が,大蔵省門下の清和会であることは,偶然ではありません。そして,郵政省壊滅によって簡易生命保険も民営化され,アメリカの保険会社が参入しやすくなりましたが,これも,アメリカべったりの外交を推し進めた小泉純一郎の態度(アメリカが開戦したアフガン戦争・イラク戦争に追従)と整合的です。)

だから,民営化前の預金を払い戻す場合,払い戻すのは,「ゆうちょ銀行」ではなく,「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構」なのです。

ただ,ゆうちょ銀行も,「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構」から業務委託は受けているので,ゆうちょ銀行の窓口やATMで,民営化前の預金を引き出すことはできます。

しかし,訴訟を提起された場合は業務委託の範囲外らしく,したがって,預金を郵政省から引き継いだ「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構」に対して,訴訟を提起する必要があります。

ちなみに,「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構」は,今は「独立行政法人 郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構」という名前に変更されています。

いずれにせよ,めちゃくちゃ長ったらしいですね(笑)。

豆知識がいろいろと多かったですが,結局,「お金を出した人=預金者」ということが,今日のポイントです。

↑の事案では,中身のお金を出した人が特定するのが簡単でしたが,多くの普通預金の場合は,預金に日々変動があるので,なかなか「お金を出した人」を特定することが難しいです。

だから,普通預金の場合は,名義人=預金者,と認めざるを得ないケースが多いようです。

今日は,こんな感じで終わります。

それではまた明日!・・・↓

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