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#500 交通事故の話:評価損の額はかなり安くなってしまいます

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【 今日のトピック:評価損の額 】

今日も昨日に引き続き,評価損の話です。

今日は,評価損の「金額」がどうやって算定されるか,ということについてお話しようと思います。

さて,昨日のブログでは,交通事故の紛争で,「評価損」なるものが存在することを説明しました。

交通事故の紛争では,被害者が,加害者に対して損害賠償を請求するわけですが,「損害賠償」には,ケガの治療費だけでなく,車の修理費など,自動車に発生した損害も含まれます。

自動車に発生した損害の代表例は,↑にも書いたとおり,修理費ですが,他にも,修理している間の代車費用も含まれます。

そして,修理費と代車費用の他に,「評価損」というものが存在する,ということを昨日は説明しました。

「評価損」とは,「修理しても避けられない価値の下落」のことです。

例えば,交通事故によって自動車の窓ガラスが割れた場合は,その窓ガラスを新しい窓ガラスと交換することで修理は完了し,自動車の価値は事故前の状態に戻ります。

でも,自動車のフレーム(↓の画像参照)が事故で歪んでしまった場合は,歪みを伸ばしたとしても,それによって,歪んだという過去が消せるわけではありません。

画像1

窓ガラスの場合は,割れた窓ガラスを交換することで,窓ガラスが割れたという過去を消し去ることができますが,歪んだフレームを伸ばしたとしても,フレームが歪んだという事実を消し去ることはできません。

歪んだ部分だけ取り外して交換することもできますが,そうすれば,「取り外した」という過去を消し去れなくなります。

取り外して,またくっつけた部分は,どうしても強度が弱くなるので,事故前の状態に戻すことは出来ません。

だから,フレームが歪んでしまうと,歪んでしまったという事実が残りますし,取り外して交換しても,取り外して交換したという事実を消し去ることができず,それによって,自動車の安全性がどうしても下落してしまいます。

その結果,車両の価値が下落してしまい,この下落分を「評価損」という言葉で表現しているわけです。

それで,今日は,この「評価損」の金額をどうやって算出するか,という話です。

よく主張されるのは,事故前の車両価格と事故後の車両価格との差額が「評価損」という話です。

例えば,事故前であれば150万円で売却することができたのに,事故後は100万円でしか売却できなかくなった,というケースで,差額の50万円を「評価損」として請求する,ということがあります。

この考え方は,とても真っ当な気がします。

先ほど説明したとおり,「評価損」は,「価値の下落」ですから,事故前と事故後の売却価格を見比べて,その差額が「評価損」に該当しそうです。

でも,これは最高裁で否定されています。

「否定されている」というか,この手法で算出していいケースが,めちゃくちゃ限定されています。

最高裁が,具体的にどう言っているかというと,

・事故によって物理的または経済的に修理不能となった状態

・フレームなど車両の本質的構造部分に重大な損傷が生じた結果,車を買い替えるのもやむを得ない場合

こういった2つの場合に限って,事故前の売却価格と事故後の売却価格を見比べて,差額を請求することができる,と言っています。

でも,こんなケースでは,そもそも,事故後の売却価格がめちゃくちゃ安いですよね(笑)。

「物理的に修理不能」とは,車がぺしゃんこになって,修理しようがない状態です。

「経済的に修理不能」とは,修理代が車の価格を上回る結果(例えば,50万円の価値しかない自動車を100万円かけて修理する必要はないですよね),修理するくらいなら買い替えるほうが合理的,という場合です。

そして,2つめは,フレームなどの車両の本質的部分に重大な損傷が生じたケース,となっていますが,そんな車,買い手がつくかどうかもわかりませんよね(笑)

まあ,そうとう安い値段であれば,買ってくれるかもしれませんが,車両の「本質的構造部分」に「重大な損傷」があるなんて,僕なら怖くてぜったいに買いたくありません(笑)。

結局,事故前の売却価格と,事故後の売却価格を見比べて,その差額を「評価損」として請求できるケースは,かなり限られている,ということになります。

だから,事故でフレームが歪んでしまい,評価損を請求できるケースでも,事故前の売却価格と事故後の売却価格を見比べて,その差額を「評価損」として請求することは,基本的にできないのです。

こういった算定方法で評価損を請求できるのは,↑に書いたような極端なケースだけです。

じゃあ,↑に書いたような極端なケース出ない場合,「評価損」をどうやって算定しているかというと,だいたいは,「修理費の2割」とか「修理費の15%」とか,そういった感じで算出しています。

修理に50万円が必要となったのであれば,その2割=10万円が「評価損」の金額,という感じで算出されているケースが多いです。

車の所有者としては,事故によってフレームが歪み,それによって大きく価値が下がったんだから,もっとたくさん請求したい,という気持ちもよくわかります。

ただ,フレームが歪んでしまっているとはいえ,いちおう修理は完了し,元の状態に戻っていはいるのです。

もちろん,フレームが歪んだ過去を消し去ることはできず,安全性に悪影響が出てはいますが,その「悪影響」がどれくらいなのか,金額的に算定するのはかなり難しいですし,この悪影響が,今この瞬間に湧いて出てくるものでもありません。

だから,結論としては,修理費の2割程度を,「評価損」として上乗せするという処理がなされることが多いです。

【 まとめ 】

「評価損」の請求は,理論的に成り立ちますが,その金額を算定するとなると,期待よりもかなり低額になってしまうことが多いです。

事故による衝撃がかなり大きく,自動車に大きな損傷が出てしまったようなケースであれば,事故前の車両価格と事故後の車両価格を比べて,その差額を「評価損」として請求することもできますが,そこまで衝撃が大きくない事故であれば,修理費の2割ほどが上乗せされるだけとなってしまう可能性も高いです。

評価損について気になる方は,いちど弁護士に相談されることをオススメします。

それではまた明日!・・・↓

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