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#414 相続の話:引出金は頻繁にモメる-2

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

弁護士古田博大の個人ブログ(毎日ブログ)へようこそ。

このブログでは,2017年1月に弁護士に登録し,現在弁護士5年目を迎えている私古田が,弁護士業界で生き残っていくために必要不可欠な経験と実績を,より密度高く蓄積するため,日々の業務で学んだこと・勉強したこと・考えたこと・感じたこと,を毎日文章化して振り返って(復習して)います。

僕の経験と実績を最も届けなければいけないお相手は,このブログを読んで,僕のお客さんとなってくださるかもしれない方々,つまり,法律のプロではない皆さんだと思っています。そのため,日々の業務・経験がこのブログのトピックになっているとはいえ,法律のプロではない方々にわかりやすく伝わるよう,心がけています。

後戻りの必要なく,スラスラと読み進められるようにも心がけていますので,肩の力を抜いて,気軽な気持ちでご覧くださるとと大変嬉しいです。

【 今日のトピック:相続(引出金) 】

さて,今日も昨日に引き続き,相続と引出金についてお話していきます。

被相続人が亡くなった後,被相続人の預金口座の履歴を銀行が開示してくれるので,このことが「引出金」が紛争になってしまうきっかけでもある,ということが昨日のブログを見ると分かると思います。

「被相続人(ひそうぞくにん)」という法律用語については,昨日も書きましたが,亡くなった本人のことを「被相続人」と呼びます。

被相続人が亡くなるまでは,被相続人の預金口座の履歴なんて,銀行は預金者本人(=被相続人)以外には開示しません。

自分の預金口座の履歴なんて,めちゃくちゃにプライベートな情報ですから,自分以外に銀行が勝手に開示しちゃったら大変です。

だから,銀行は,被相続人が生きている限り,被相続人以外に預金口座の履歴を開示することはありません。

でも,被相続人が亡くなると,相続人に対しては,履歴を開示します。

「相続人」とは,被相続人の配偶者(夫または妻)や子どもです。被相続人が亡くなった際に残された遺産(被相続人が亡くなる瞬間まで保有していた財産)を被相続人の死後に引き継ぐことのできる候補者を,「相続人」と呼びます。

被相続人の遺産は,被相続人が遺言を残していない限り,相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で,誰にどれくらい分配するのか決める,ということも昨日説明しました。

話し合いがつかなかれば,裁判所に決めてもらうということも,昨日説明しました。

さて今日は,被相続人が亡くなった後,預金口座の履歴が開示され,多額の引出金が確認できた場合について,話を進めます。

昨日も説明しましたが,被相続人が生きている限り,お金は必要です。

生きている限りお金が必要なのですから,被相続人の預金口座からお金が引き出されるのは普通です。

引き出したお金を,被相続人の生活費として使うことは,何ら責められるべきことではありません。

この観点から言えば,引き出されたお金を全額返せ!と請求することはできないんですね。

被相続人が生きているわけですから,生きている人の生活費(食費・光熱費・衣服代・病院代など)として預金口座から引き出したお金を使えるのは当たり前で,それを後から返せなんて言えるわけがないんです。

おそらく,この点は,誰しも納得できるでしょう。

亡くなった被相続人も,生きていた頃に生活費が必要だったわけで,その生活費として使ったお金も返してほしいと思う人はいないと思います。

「いない」というか,「法律上返してもらえない」のですが(笑)。

だから,引出金が問題となる場合って,生活費としては説明できないほど高額な引き出しがあるケースなんです。

被相続人って,だいたいの場合高齢です。高齢で活動範囲も狭くなっています。人との付き合いも減少している場合も多いでしょう。

そんな高齢者の生活費としては説明できないほど高額な引出金があるからこそ,「引出金を返せ!」という紛争になります。

ただ,「生活費を超えるお金を全額返せ!」という請求は,残念ながら難しいでしょう。

「生活費を超える金額は,全部横領されたんだから,全部返さなきゃおかしい!」という気持ちもわかるんですが,実は,そうなっていません。

ちょっと説明します。

まず第1に,「返せ!」という請求自体の法的根拠について説明します。

もし仮に,被相続人の預金口座から引き出されたお金を,被相続人に無断で横領した場合,「返せ!」と請求できるのは,被相続人本人です。

だって,横領されたお金は,被相続人のモノだからです。

ただ,被相続人は亡くなっているので,被相続人が「返せ!」と請求することはできません。

じゃあ誰が「返せ!」と請求できるのかというと,本来被相続人が「返せ!」と請求できる権利を,被相続人が亡くなったことに伴い引き継いだ人です。

その「引き継いだ人」とは,「相続人」です。

被相続人が持っていた「返せ!」と請求できる権利は,被相続人の死亡に伴い,相続人に移転します。

相続人が1人であれば,その1人の相続人が権利全額を引き継ぎますが,相続人が2人以上の場合は,各相続人の法定相続分に従って分割されます。

さて,「法定相続分」という専門用語が出てきましたが,これは,法律で割合が決まっています。全部説明するのはムリなので,ここではよくあるパターンで説明します。

例えば,相続人が子ども3人だけの場合,法定相続分は3人の子どもそれぞれ3分の1ずつです。

相続人が,妻と子ども2人の場合であれば,法定相続分は,妻が2分の1,子どもが4分の1ずつです。

さて,被相続人が持っていた「返せ!」という請求する権利について,その額が3000万円だとしましょう。

子ども3人の例だと,子ども1人が請求できる金額は1人あたり1000万円です。他の人のぶんもまとめて請求することはできません。

妻と子ども2人の例だと,妻が請求できるのは1500万円,子どもが請求できるのは1人あたり750万円です。

「法定相続分に従って分割される」というのは,こういう意味です。だから,「返せ!」といっても,横領された全額を返せと請求できるのではなく,横領された金額のうち,自分の法定相続分に従って分割された後の金額だけ請求できるということです。

このような「法定相続分による分割」によって,請求できる額が減るのもありますが,他にも,減額する理由があります。

1つめは,「扶養義務」と言われるやつです。

これは,被相続人が,子どもを扶養する義務のことです。

「子ども」といっても,「子ども」は,50代・60代の「おじさん・おばさん」であることが多いです。相続の事案では。

そういった,「おじさん・おばさん」の「子ども」であっても,70代・80代・90代の「親」に扶養義務は発生しています。

とはいえ,そういった「おじいさん・おばあさん」になってしまった「親」が,おじさん・おばさんになった「子ども」を養わなきゃいけないかというと,そうじゃありません。

子どもがきちんと働いて仕事をしていれば,それ以上になにかしてあげなくていいわけです。

ただ,「なにかしてあげなくていい」とはいえ,「してあげてもいい」のです。

例えば,生活費として10万円を援助してあげるとか,そういうことはしていい。

子ども家族と同居している「親」が,自分の生活費に加えて,子ども家族の援助として,毎月10万円を子どもに渡すとか,そういうことは「しなくてもいい」ですが,「してもいい」のです。

そういう生活費の援助をした場合,その援助としてお金を渡すことは,親としての「扶養義務」を果たしているだけです。

「義務」を果たしているだけなので,渡したお金を後で返さなきゃいけなくなるわけじゃありません。

結局,親の子に対する「扶養義務」の範囲内で渡したお金も,「返せ!」という請求には含まれないのです。

それともう1つ説明します。

それは,「贈与」です。つまり,被相続人が自分のお金を「あげた」のだとしたら,それも後で返す必要はありません。

よく問題となるのは,被相続人と同居している相続人と,同居していない相続人が存在するパターンです。

被相続人は,同居している相続人に対しては,いろいろとよくしてあげるんですが,同居していない相続人は,その恩恵を受けられない。

同居している相続人に対しては,先ほど書いたような「扶養義務」として,毎月,自分の生活費も含めて援助するけれども,同居していない相続人には,その援助がない。

加えて,同居している相続人に対しては,毎月の生活費援助のほかに,いろいろとお金を「あげる」こともある。

この「お金をあげる」については,恩恵を受けられなかった相続人としては,腸が煮えくり返る思いでしょうが,本当に「あげた」のであれば,返してもらうことはできません。

だって,「あげた」のですから。

被相続人は,生きている間,自分のお金を自由に使っていいです。これは間違いない。

だからこそ,自分のお金を誰かに「あげて」もいい。その「あげた」お金を,亡くなった後に返してもらうことはできません。

そりゃそうですよね。

お金をもらうことって,ありますよね。お年玉とか。

そのお年玉が,じいちゃんやばあちゃんが死んだら最後,相続人に返さなきゃいけなくなるなんてあり得ません。そんな法律がまかり通っていたら,おちおちお年玉も貰えません。

以上のことをまとめると,

・返してもらえるのは自分の法定相続分だけ

・被相続人自身の生活費に使ったお金は返してもらえない

・被相続人が扶養義務を果たしただけのお金(生活費の援助など)も返してもらえない

・被相続人が「あげた」お金も返してもらえない

ということになります。

そうすると,結局,返してもらえるお金は,預金口座から引き出されたお金のうち,被相続人に「無断で自分のために使った額」または「無断で自分のポケットに入れてしまった額」に限られる,ということになります。

引出金を返せ!と請求する場合,↑の「無断で使った・ポケットに入れた」を立証する必要があり,この立証が難しい場合も結構あります。

まずは,預金が引き出されたとして,その引き出しを実際に行ったのは誰かを確定する必要があります。そのうえで,引き出したお金がどうやって保管され,どのように使われたのか,それを明らかにしていかなきゃいけません。

僕が今担当している事件では,引き出した時点で,被相続人の認知症がかなり進んでおり,身体も衰えて介護が必要な状態となっていたので,実際に引き出したのは被相続人ではなく,同居して介護していた,もう一方の相続人であることは間違いありません。

引き出したお金を,その相続人が管理していたのも間違いない。

そして,認知症が進んでいたわけですから,「あげた」のもあり得ない。「あげる」という意思決定をするだけの判断力を失っていたわけですから。

そして,「扶養義務」を果たした,というのも難しいでしょう。

被相続人本人が介護が必要な状態に陥っているわけですから,子どもに生活費を援助している場合じゃありません。認知症が進んでいたので,扶養義務を果たすかどうか(子どもの生活費を援助するかどうか)の判断もできません。

そうすると,「扶養義務を果たした(子どもの生活費を援助した)」という理由も通用しない。

結局,「被相続人自身の生活費として使った額」しか減額できず,この額を差し引いた残額のうち,法定相続分に相当する額を,僕の依頼者は請求できることになろうかと思います。

さて,引出金については,これくらいで終わろうと思います。

それではまた明日!・・・↓

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