#137 『銃・病原菌・鉄』振り返り-⑥

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,狩猟採集生活を送っていた人類が,知らずしらずのうちにバラまいた植物から芽が出て同じ植物が生まれてくることを発見し,そして,生まれてきた植物の中から,知らずしらずのうちに,人類にとって都合の良い(より効率的にカロリーを摂取できる)ものを選抜し,繰り返し植えていたところ,最終的に,植物の「栽培」に行き着いた,ということを説明しました。

しかし,「栽培」の開始時期には地域格差がありました。最初に確認されている「栽培」は,肥沃三ヶ月地帯(今のイラクあたり)で紀元前8500年頃に始まりました。これに対し,ヨーロッパ人がやってくるまで,アメリカ大陸やオーストラリア大陸では,狩猟採集生活を続けていた先住民がたくさんいました。

どうして地域格差が生じてしまったのでしょうか。今になって考えると不思議ですよね。アメリカ大陸やオーストラリア大陸では,現在,めちゃくちゃ大規模な小麦栽培が行われています。つまり,アメリカ大陸やオーストラリア大陸には,小麦の栽培に適した広大な土地が広がっているのです。

にもかかわらず,アメリカ大陸やオーストラリア大陸では,ヨーロッパ人がやってくるまで,小麦などの植物栽培はあまり行われていませんでした(行われていたとしても,小規模でした)

このような地域格差が生じた理由は,野生種の有無にあります。肥沃三ヶ月地帯には,小麦・大麦・エンドウなど,栽培に適した植物の野生種が自生していました。しかし,アメリカ大陸に自生していたのは,トウモロコシの先祖のみでした。このトウモロコシの先祖も,「テオシント」と呼ばれる雑草と考えられていますが,この雑草は,実の周りが岩のような皮で覆われています。この雑草を,食べられるまで進化させるには,途方も無い年月(数千年)が必要になったと思われますし,そもそも,そんな岩みたいな植物を食用に改良するメリットがなく,栽培を始めようという動機に欠けていたでしょう。

この野生種の存在は,「栽培」だけでなく,「家畜」の観点にも当てはまります。アフリカ大陸には,様々な野生の動物が生息していますが,それらは家畜になっていません。例えば,馬は家畜になっているのに,シマウマは家畜になっていないのです。他にも,カバも,家畜化できれば,非常に多くの肉がとれて有用と思われますが,家畜化されていません。

これは,結局,家畜化できる野生の動物が限れられていることが理由です。家畜化するには,なるべく少ない餌で大きく成長し(餌の問題),その成長速度も早く,人前での繁殖に抵抗がなく,気性が穏やかで,パニックになりにくく,序列を作れる(集団生活に寛容)など,多くの条件が必要で,どれか欠けるだけで,家畜化には適しません。

例えば,シマウマは,非常に気性が荒いため,家畜化できないのです。カバも,同様です。というか,↑の条件を満たす動物は,世界中探しても,ほんの一握りで,結局,今現在家畜化されている動物(牛,豚,馬,羊,ヤギ,ラクダ,犬など)で網羅されてしまっています。

このような,家畜化に適した動物の野生種も,ユーラシア大陸に分布していました。栽培に適した植物も,ユーラシア大陸の肥沃三ヶ月地帯に多く分布していたので,結果的に,ユーラシア大陸は,栽培と家畜化の両方の面で,他の大陸と比べて,農耕生活に移行しやすい環境でした。

そして,ユーラシア大陸の形も重要です。ユーラシア大陸は,東西に長い大陸です。そのため,同じ緯度帯が広がっているわけですが,同じ緯度では気候が似ています。そうすると,農耕が他の地域にも伝播しやすいのです。ユーラシア以外の大陸では,同じ気候が広い範囲にわたることはありませんでした。

例えば,オーストラリア大陸は中心付近が乾燥地帯で,農耕には適しません。アフリカ大陸や南北アメリカ大陸は,東西に広がるのではなく,南北に大陸が広がっているので,同じ気候が広い地域に分布するということがなかったのです。南北方向に大陸を縦断してみたら,その途中で気候は大きく違ってきますよね?そのせいで,南北方向に広がる大陸では,農耕が伝播しにくかった。

で,同じ気候が広い地域に分布することの何が良いのか,ということですが,そもそも,食料生産が生まれたことによって,狩猟採集生活ではあり得なかったことが起きます。それは,自分で食料を生み出さない人が出てくることです。

狩猟採集生活では,各自が自分の食料を調達しなければなりませんでした。もちろん,役割分担くらいはあったでしょうが,それぞれが必死で食料を集めなければ,コミュニティ全員の食料を確保することができなかったので,食料を調達しない人というのはあり得ませんでした。

しかし,食料生産が始まり,食料の安定供給が可能になると,余剰作物というのが生まれてきます。ある人が食料を生産して,その生産された食料があれば,他の人も養えるようになります。そうすると,食料を生産しない専門職が生まれます。その専門職が,文字などの技術を生み出し,社会の発展に貢献します。

そして,そういった発展が,いろんなところで起きるわけです。同じ気候が広がっていると。いろんなところで食料生産が行われ,その地域が近いと,人々の交流が生まれ,技術の発展も促されます。

このように,食料生産可能な地域=食料生産に適した気候帯が広く分布していると,社会・技術の発展が促され,より進んだ社会が生み出されるのです。

そのため,ユーラシア大陸で,社会の発展が最も早く進む結果となったのです。

今日は,時間がきましたので,ここまでにします。

明日は,今ホットな「病原菌」の部分についてお話したいと思います。

それではまた明日


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