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#503 不法行為の消滅時効:刑事事件で否認されていたケース

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【 今日のトピック:不法行為の消滅時効 】

今日も少し難しそうなタイトルですが,なるべくわかりやすく書いていきます。

さて,「不法行為」という言葉を聞いたことある人は結構多いと思います。

「不法行為」とは,その名の通り,不法な行為(違法行為)のことで,その不法行為によって被害者に損害が発生した場合,被害者は,加害者に対して,その損害をお金に換算して支払ってもらうことができます。

「お金に換算して支払ってもらう」ことを,「賠償」と呼びます。だから,「損害賠償」という用語が出来上がるわけです。

ただ,損害賠償にも時効があって,「損害及び加害者を知った時から3年」です。

被害者は,自分に損害が発生しているわけですから,「損害を知った時」は,基本的に,被害者が自身の損害を認識した時点です。

そして,「加害者を知った時」というのも,被害者は,加害者から,加害行為(=不法行為)を受けているわけですから,加害者が誰なのかも,被害を受けた時点,つまり,損害が発生した時点で「知る」ことになるのが普通でしょう。

だから,基本的に,不法行為を理由に損害賠償を請求する場合って,被害を受けた時点から3年以内に請求しないと,時効で請求できなくなってしまうのです。

例えば,交通事故でケガを負った場合などが,典型的な「不法行為を理由に損害賠償を請求する」ケースですが,普通は,交通事故が発生した時に,加害者から免許証を見せてもらったりして,加害者の氏名・住所を特定できるので,交通事故日から3年が経過すると,損害賠償を請求できなくなります。

(ただ,加害者側の保険会社との交渉が難航し,その結果,事故から3年が経過してしまった場合は,交渉継続中は時効がストップしているので,時効によって請求できなくなることはありません。)

こういう感じで,不法行為の時効は,基本的に,被害を受けた時点から3年で完成しちゃうのですが,3年を数え始める時点(「起算点」と呼びます)を後ろに遅らせることができるケースもあります。

ここからが今日の本題です。3年のスタート時点,つまり「起算点」は,基本的に,被害を受けた日なのですが,それを後ろに遅らせることで,被害を受けた時点からは3年が経過しているけれども,まだ時効は完成していない,と認められることがあります。

こういった「起算点を後ろに遅らせる」という処理は,公害の事案などで広く認められていますが,それ以外でも認められることがあって,その1つが,刑事事件で加害者が否認している(罪を認めていない)ケースです。

しかし,加害者が刑事事件で否認しているケースであっても,基本的には,被害を受けた時点から3年がスタートします。

例えば,加害者から殴られてケガを負ったという傷害事件の場合,3年がスタートするのは,普通は殴られた日からです。

殴られた日に,殴ってきた加害者の顔や名前を認識できていることが多いでしょうから,そういった場合は,普通どおり,殴られた日から3年がスタートします。

加害者が刑事事件で否認していようが,被害者が加害者を認識した時点は変わらないからです。

でも,殴られた時点で,加害者の顔や名前を知っていても,起算点が後ろに遅らせられることがあります。

例えば,被害者が亡くなっているケースです。被害者が亡くなっている場合,損害賠償を請求するのは,被害者遺族ですが,この場合,亡くなった被害者が,被害を受けた時点で加害者の顔や名前を知っていれば,被害者が亡くなっているとしても,被害者の認識を基準として,3年がスタートします。

つまり,被害を受けた時点から3年がスタートするのです。

ただ,加害者が,刑事事件で否認していらどうでしょうか。

亡くなった被害者としては,加害者がどれだけ否認していようが,殴った相手はその人で間違いないのですが,殴られた現場に立ち会っていない遺族としては,本当にその人が殴ったのかどうか確かめることができません。

実際に,刑事事件では,「自分は殴っていません」と主張しているわけですから,そう主張している人に対して,損害賠償を請求するのは,実際問題,かなり難しいと思います。

ちょっと補足ですが,3年がスタートした後,日々刻々とタイムリミットが迫りますがが,そのタイムリミットをいったんストップさせる方法があります。それは,訴訟提起です。

訴訟を提起して,その訴訟が裁判所で審理されている間は,時計の針が進まなくなります。

そして,その訴訟で勝訴判決が出れば,その勝訴判決が確定した日(不服申し立て期限までに不服が申し立てられなかった)に,時計の針がリセットされ,その日から,今度は3年ではなく10年の時計の針がスタートします。

でも,実際に現場に立ち会ったわけでもない被害者遺族が,「自分は殴っていません」と主張する加害者に対し,訴訟を提起するのは,実際問題,難しいですよね。

訴訟を提起するにも,素人が適当にはできません。弁護士に依頼したりと,お金と手間がかかります。

だから,被害者が亡くなっているケースで,3年がスタートする時点を,被害を受けた時から後ろに遅らせて,刑事事件の第一審判決が出た時点からスタートする,と認めた判決も過去にあります。

刑事事件の第一審で有罪判決が出たのであれば,それ以降は,有罪判決が出る前とは違って,加害者に対して訴訟を提起するのも「難しい」とまではいえないから,時計の針をスタートさせてもいいよね,という判断です。

あと,もう1つ,3年がスタートする時点を後ろに遅らせるパターンがあって,それは,被害者が未成年のケースです。

被害者が未成年の場合,加害者に対して損害賠償を請求するためには,親権者に同意してもらうか,あるいは,親権者が代理人として,被害者の代わりに請求する必要があります。

でも,親権者自身は,被害の現場に立ち会っておらず,この点は,先ほど説明した被害者が亡くなっているケースと同様です。

まあ,多くの場合は,親権者が,自分の子どもである被害者の言葉を信じて,加害者に対して損害賠償を請求するでしょうが,例えば,被害者が自分の子どもで,加害者が自分の両親である場合など,どちらも同じくらい大切なケースもあります。

刑事事件では,自分の両親が否認しているわけですから,自分の子どもを信じれば,自分の両親を信じないことになりますし,逆に,両親を信じれば,自分の子どもを信じないことになります。

こういったケースで,親権者が,加害者に対して損害賠償を請求することに二の足を踏むこともあり得るわけで,そうすると,時計の針を止めるために必要な訴訟提起が遅れてしまいます。

被害者は未成年なので,自分の力だけでは,訴訟を提起することができません。親権者が同意してくれないと,訴訟を提起できないのですが,そのせいで,訴訟提起が遅れ,時計の針を止められないまま3年が過ぎ去ってしまうこともあり得ます。

こういったケースでも,刑事事件の第一審判決が出た時点から3年がスタートする,と判断されるでしょう。

【 まとめ 】

今日の話をまとめると,

・原則としては,被害を受けた時点で,加害者の顔と名前がわかっていれば,被害を受けた時点から時効期間3年がスタートする。

・けれども,被害者が亡くなっていたり,被害者が未成年であるなど,被害者が時計の針をとめるための手段(訴訟提起)をとれなかったのも無理はないケースであれば,第一審の有罪判決が出た時点から3年がスタートする。

こういう感じだと思います。

刑事事件で加害者が否認している場合,示談交渉もありません。

そうすると,被害者が自ら損害賠償を請求しなければならないので,時効には十分に気をつけてください。

それではまた明日!・・・↓

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