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#470 ふっかけられたとき

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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このブログでは,現在弁護士5年目の僕が,弁護士業に必要不可欠な経験と実績を密度高く蓄積するため,日々の業務で積んだ研鑽を毎日文章化して振り返っています。

日々の業務経験がトピックになっているとはいえ,法律のプロではない方々にわかりやすく伝わるよう,心がけています。スラスラと読み進められるよう,わかりやすくシンプルな内容でお届けしております。肩の力を抜いてご覧くださると嬉しいです。

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【 今日のトピック:ふっかけられることもあります 】

弁護士をやっていると,「ふっかけられる」という事態に遭遇することが結構あります。

「ふっかけられる」というのは,言い方が抽象的ですが,ここでは,「法的根拠もないのに請求される」という感じです。

僕も,かつて,2億円を「ふっかけられた」事件に遭遇したことがあります。

10年以上も前に売却した土地の買主から,今さら,土地の中に産業廃棄物が埋まっていたとして,その撤去費用2億円を請求されたのです。

これなんて,もうめちゃくちゃな「ふっかけ」なのですが,そういった「ふっかけ」に遭遇した場合,どうすればいいんでしょうか。

1つは「無視する」という方法があります。

例えば,↑の2億円の例でも,ふっかけてくる相手が,どれだけ「2億円払え!」と要求したところで,こちらが2億円を振り込まない限り,相手の手元には1円も舞い込んできません。

無視しているだけで,相手に対し,「1円も入金されない」という状態を作り出すことに成功しているので,これはこれで,かなり有効な方法です。

ただ,訴訟を提起されたら話は別です。

訴訟を「無視」すると,相手の要求がそのまま判決になってしまいます。

「欠席判決」と言われるのですが,いくら相手が,あることないこと好き勝手書いた訴状を裁判所に提出したとしても,その訴状を受け取ったにもかからず,無視してしまうと,訴状に書かれたとおりに,裁判所が事実を認定して,その事実に基づき,相手が主張するとおりの判決が出てしまいます。

↑の2億円の例で言えば,2億円を払えという訴訟が提起されて,その訴状が届いたのに,裁判所に出頭せず,反論の書面も一切出さずに無視してしまうと,2億円払えという判決が出てしまうんです。

だから,「無視」が有効なのは,訴訟が提起されるまでです。訴訟が提起され,訴状が裁判所から送られてきた後は,きちんと反論しないとダメです。

まあ,2億円なんてのは,かなりレアなケースですが,もう少し身近な「ふっかけ」について説明すると,例えば,大昔に借りた借金で,返済しないままになっていたものを,10年以上後になって請求してくるパターンがあります。

まあ,本来であれば,満額返済しなきゃいけませんが,とはいえ,借金は,返済期限から5年が経過すると時効になります。

サラ金業者は,時効を阻止したいのであれば,返済期限から5年が経過しないうちに,訴訟を提起しなきゃいけません。訴訟を提起すれば,いったん,時効の進みはストップするんですが(訴訟中に返済期限から5年が経過しても時効にはなりません),訴訟が判決で終わった後は,判決が確定した日(判決に不服を申し立てないまま不服申立期限を終えた場合)から10年,また時効が延びます。

こうやって,サラ金業者は,時効を延ばしてあげないと,返済期限から5年で時効がきてしまいます。

だから,時効を延ばす努力をしないまま,返済期限から5年が経過した後になって,借金の返済を求めるのは,まさに「ふっかけ」なのです。

この「ふっかけ」も,無視していればいいんですが(無視していれば,それだけで,相手の懐には1円も入らない状態を作り出せるので),とはいえ,督促状がたくさんやってきてうざったい場合は,「時効の援用通知」といって,「この借金はもう時効ですよ」とサラ金業者に通知するという方法をとることもできます。

この「時効の援用通知」を出せば,法的に借金が消滅するので,サラ金業者も督促状を送ってこなくなります。

こういう対処法もありますが,訴訟を提起されたら,その訴訟で「消滅時効を援用する」という対処法をきちんととらなきゃいけません。そうしないまま,訴訟を無視してしまうと,先ほど書いたとおり,相手(サラ金業者)の言い分のとおりの判決が出てしまうからです。

で,こういった「ふっかけ」に遭遇し,弁護士に依頼するケースがあるんですが,その場合,依頼を受けた弁護士は,当然ながら,請求をゼロにするために最善を尽くします。

相手の請求が法的に成り立たないのであれば,その請求を0(ゼロ)にしてあげるのが,弁護士の大きな役割です。

まあ,依頼者からすれば,法的に成り立たない請求(ゼロの請求)であれば,それに対処するために,弁護士に対して着手金や報酬金を支払うのはアホらしいかもしれませんが,とはいえ,弁護士がきちんと法的に反論してあげないと,↑に書いたように,無視するだけでは,相手の言い分そのままの判決が出てしまうわけですから,そういった不都合を回避する対価として,弁護士にお金を払のも,全く理由がないことでもないと思います。

まあ,とにかく,「ふっかけられた」お客さんから依頼を受けた弁護士は,ゼロを目指して尽力するわけです。

そんな事件で,弁護士が,依頼者に対し,「いくらかは相手にお金を払いませんか?」と提案することがあります。

依頼者からすれば,「おいおいおいおい。こっちはふっかけられているだけなのに,どうしてお金を払う必要があるんですか?この弁護士は自信がないの?大丈夫なのか?」と不安になってしまいそうです。

でも,僕ら弁護士からすると,「ふっかけ」の事件であっても,いくらかお金を払う理由はある,と思っています。

ちょっと極端な例かもしれませんが,例えば,怖いお兄さん方から,理不尽にもカツアゲにあった場合,カツアゲは「恐喝罪」という犯罪ですし,見ず知らずの怖いお兄さん方に,本来1円も支払う必要はないはずです。

しかし,「支払う必要はありません」と最後の最後までつっぱねてしまうと,身体に危険が及ぶ可能性があるわけです。当然,相手は複数人でカツアゲしてきますから,多勢に無勢で,勝てる見込みはありません。

そういった場合に,自分の身を守るために,いくらかお金を差し出すのは,合理的な判断です。

そして,「ふっかけ」の場合も,この「合理的な判断」が当てはまることがあるんです。

弁護士がこんなこと言うのもアレなのですが,しかし,「ふっかけ」てくる相手は,変な人なのです。何を考えているかわからない。そして,その相手が,弁護士にも依頼しているとなれば,そういった変な依頼を受けている弁護士も変なのです。

そういった人たちが,訴訟まで提起して無理難題を押し付けているのが,「ふっかけ」事件なのです。

もちろん,こちらは,それを防御するために弁護士を雇っているわけですが,とはいえ,弁護士も,相手が訴訟を提起することは止められません。

「裁判を受ける権利」が憲法に書かれていますので,いくらこちらが弁護を雇って防御したとしても,訴訟を提起して争ってくることを妨げることはできないのです。

そして,訴訟でも,相手の無理難題をつっぱねてゼロを貫き通し,無事に勝訴判決を得ることができたとしても,この勝訴判決(相手からすれば敗訴判決)に対し,相手が不服を申し立てることもとめられません。

そして,いくら無理筋の主張であったとしても,不服を申し立てられたら,それに付き合わされてしまいます。「裁判を受ける権利」があるからです。

こういった,相手の無理難題に付き合わされるのは,依頼者本人が疲れてしまいます。

弁護士は,仕事で付き合わされているだけですが,依頼者は違います。

訴訟となると,弁護士と打合せしなきゃいけなくなったり,尋問で裁判所に出頭しなきゃいけなくなったり,いろいろと手間がかかります。

こういった手間がかかっている間に,限りある時間がどんどん奪われていってしまいます。

その手間暇をかけた結果,最終的に勝訴判決を得たとしても,それに対して不服を申し立てられてしまう可能性もあります。

というか,相手は,無理難題を押し付けてくるような人ですから,裁判所の判決だろうが納得せず,最高裁まで争ってやる!と意気込んでいるかもしれません。

意気込むのは相手の自由ですが,それに付き合わされるのは,これまで書いてきたとおり,大変です。

こういった大変さを回避するために,「いくらか払って和解するという選択肢もありますよ」と僕ら弁護士は提案することがあるんです。

「ふっかけられている」だけで,法的に支払う根拠は全くないんだけど,「ふっかけ」に付き合うだけでも大変だから,いくらか払って和解するという選択肢もあり得るのです。

とはいえ,「ふっかけ」に付き合うのは大変とはいっても,支払える金額にも限度があります。

法的にお金を支払う根拠はないのですから,お金を支払う理由は,あくまで,「ふっかけに付き合わされるのを回避する」という目的だけです。

時間や労力・疲労を削減する目的だけで,100万円以上も支払える人は,そうそういないと思います。

だから,「いくらか支払う」にも限度があって,その限度内で相手が納得しなければ,「いくらか支払って和解する」という話はできません。

ふっかけられた結果,結局,ふっかけられた額に近い金額を支払ってしまえば,「付き合わされるのを回避する」という目的ではなくなってしまいますからね。

支払える金額は,事案やお客さんの資金力によって全然違ってきますが,相手の要求額からは大きく下回ります。

それに相手が納得しなければ,残念ながら,「いくらか支払って和解する」ことはできなくなってしまいます。この場合は,最後の最後まで付き合うしかありません。

【 まとめ 】

ふっかけられたお客さんとすれば,弁護士に対しては,「早くゼロで紛争を終わらせてほしい」と思っていらっしゃるでしょうが,「裁判を受ける権利」があるので,相手が裁判を提起するのをとめることはできません。

こちらが,本来は「ゼロ」だけれでも,付き合わされるのも面倒だからと,少しは支払うよと相手に提示したとしても,相手が納得しない場合は,裁判には最後の最後まで付き合わなきゃいけません。そうすると,解決はどんどんどんどん長引いてしまいます。

時間や労力・疲労を削減するするために,いくらかお金を払うのは,お客さんの意向次第で,充分あり得る話です。

もちろん,「長引いてもいいから1円も払いたくありません」という依頼者であれば,僕は,最後の最後までお付き合いしますよ(笑)。

相手が最高裁まで争ってこようが,怖くはありません。

ただ,最後の最後まで争うことによるリスク(時間や労力・疲労)については,きちんとご説明させていただきます。

それではまた明日!・・・↓

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