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#486 少し難しそうな話:物上保証人の求償

【 自己紹介 】

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【 今日のトピック:物上保証人の求償 】

今日はなんか難しそうなタイトルです。「物上保証人」と「求償」という,2つのワードが出てきてるから難しいのですが,1つずつ,ゆっくり説明します。

さて,まずは「物上保証人」です。

「物上保証人」は「ぶつじょうほしょうにん」と読むんですが,これは,漢字だけ見ていてもなかなかイメージしづらいです。

結論を先に言ってしまいますが,要は,「他人の借金の担保に自分のモノを差し出している人」のことです。

例えば,僕(古田博大)が1000万円を借金しているとしましょう。この場合,僕自身が,自分の土地を担保に差し出しても,「物上保証人」ではありません。

僕の父親が,父親自身の土地を,僕(古田博大)の借金の担保に差し出した場合,父親が「物上保証人」と呼ばれます。

「担保に差し出す」ということは,「借金の返済を滞納したら,差し出したモノは売却していいですよ。そして,売却代金は返済に充ててください」という意味です。

自分の借金でもないのに,自分の財産を担保に差し出すなんて,普通はしません。何のメリットもないからです。

自分の借金の担保として自分の財産を差し出すのは,よーくわかるんですが(担保に差し出してまでお金を借りてやりたいことがあるわけですよね,きっと),自分の借金でもないのに,自分のモノを担保に差し出すのは,損するばかりで無意味なのが普通です。

ただ,例えば,↑で出した,僕の父親みたいに,息子の夢を応援したいとか,そういう理由で「物上保証人」になることは,それなりにあります。

僕も過去に扱った事案で,娘夫婦が営むビジネスの事業資金を銀行から借り入れた際に(借入名義は娘の夫です),娘の父親が,自分の不動産を担保として銀行に差し出した,というのがありました。

父親とすれば,もし借金の返済が滞ってしまうと,自分の不動産が売却されてしまうのですが,それでも,娘夫婦から「事業資金を借りたい」「借りるためには不動産を担保にする必要がある」と説得されたのでしょう。

経済合理的ではありませんが,担保に差し出したのです。

(ちなみに,物上保証人が全く経済合理的ではないとも思いません。「担保に差し出す」ということは,「恩を売る」ことにもなります。もし仮に,担保に差し出したおかげで借りることのできた事業資金のおかげで,その後,ビジネスがうまくいけば,利益の配分を受けることもできるかもしれません。親族間では,担保に差し出す代わりに利益が出たら配分を受ける,という契約はあまりないでしょうが,そういった物上保証との交換条件として利益の配分を受けるという契約を交わすことはあり得ます。)

「物上保証人」の説明は,こんな感じです。

で,次は「求償」なのですが,「求償」については,まず「保証人」について説明しなきゃいけません。

「保証人」という言葉は聞いたことがある人も多いかもしれません。

「物上保証人」にも,「保証人」という言葉が混じっているので,なんか関連性がありそうです。少しずつ説明します。

「保証人」とは,「借金した人に代わって借金を返済します」と約束した人です。

「物上保証人」と同じように,わざわざ借りた本人に代わって借金を返済する必要なんてないんですが,「借りた本人に代わって返済します」と約束してしまった人を「保証人」と呼びます。

「連帯保証人」と「保証人」の違いについて気になる人も多いでしょうが,気にする必要はありません。

なぜなら,全部「連帯保証人」だからです(笑)。「連帯保証人」のほうが「保証人」よりも,責任が重たいのですが,わざわざ責任の軽い「保証人」を選ぶ銀行は存在しません。

だから,全部「連帯保証人」です。「連帯保証人」は,「借りた本人に代わって返済してください」と貸主から言われたら,拒否できません。返済するしかありません。

ただ,本来,返済するべきなのは借りた本人です。貸したほうは,借りた本人から返済されようが,連帯保証人から返済されようが,同じお金なのでどっちでもいいのですが,連帯保証人は「どっちでもいい」わけありません。

自分が代わりに返済してあげたのですが,返済してあげた分は,本来返済するべき借主本人から返してもらわなきゃいけません。

これが「求償」です。

保証人が代わりに返済してあげた分を,借主本人から返してもらうことを「求償」と呼びます。

さて,いよいよ,「物上保証人」の「求償」について説明します。

さて,物上保証人は,借りた本人がきちんと返済している限り,安心です。

担保に差し出したとはいえ,借りた本人が期限までにきちんと返済していれば,差し出した担保が売却されてしまう心配はありません。

しかし,返済が滞ると,そうはいきません。担保に差し出したモノが売却されてしまいます。

物上保証人は,担保に差し出したモノが売却されてしまうのを回避することもできます。しかし,そのためには,借主本人に代わって,借金全額を返済しなければいけません。

返済を滞納すると,多くの場合,残っている借金全額を一括で支払う,という契約になっていることがほとんどです。

だから,物上保証人は,借主本人が滞納してしまうと,残りの借金全額を一括で支払わない限り,担保に差し出したモノが売却されてしまうことを避けられません。

もし仮に,借金全額を一括で支払えた場合は,売却を回避できます。

この場合,「法定代位」といって,物上保証人が貸主と入れ替わります。「入れ替わる」というのは,元々の貸主(銀行など)は,物上保証人が返済したことで,借主本人に返済を求めることはできなくなりますが,物上保証人は,自分で返済したわけですから,その返済した額について,貸主と同じ立場で,借りた本人に請求できる,ということです。

物上保証人が,借金全額を一括で支払うことができれば,担保に差し出したモノの売却を回避できますが,まあ,そういうケースはあまりありません。

多くの場合,全額を一括で支払うことができず,担保に差し出したモノが売却されてしまいます。

売却代金は,まず返済に充てられます。返済して余りがあれば物上保証人に戻ってきますが,余りがあるケースは少ないです。

物上保証人は,自分のモノが売却されたにもかかわらず,売却代金は全額返金に充てられ,余りもない,ということがほとんどです。

とはいえ,「物上保証人」は,担保に差し出したモノ」が売却されて,その代金が返済されたら,それで全責任を果たしたことになります。

これに対し,「保証人(連帯保証人)」は,全額返済できるまで,お金を差し出さなければなりません。

ここが,保証人と物上保証人で大きく違うところです。保証人は,借金完済まで責任から解放されませんが,物上保証人は,担保に差し出したモノが売却されたら,それで責任から解放されます。

とはいえ,物上保証人は,借りた本人が返済を滞納してしまうと,先ほど書いたように踏んだり蹴ったりな状態になります。しかし,先ほどの「保証人」と同じように,借りた本人に対し,「求償」ができます。

保証人の場合,「求償」できるのは,保証人が返済した金額です。

100万円の借金を,借りた本人が10万円だけ支払った後,保証人が90万円を支払って完済となった場合,保証人は,借りた本人に対し,90万円を「求償」できます。

これに対し,物上保証人の場合,担保に差し出したモノが売却されると,求償できるのは,売却代金だけです。

例えば,物上保証人が担保に差し出した土地が100万円で売却されたとしましょう。その場合,借金の返済に充てられるのは,100万円です。

先ほど説明したとおり,「保証人」であれば,借金が完済されるまで,借りた本人に代わって返済する義務を負担し続けますが,物上保証人は,担保に差し出したモノが売却され,その売却代金が返済に充てられると,それ以降は,責任を負いません。

だから,物上保証人が「求償」できるのは,担保に差し出したモノの売却代金だけです。

担保に差し出した土地が100万円で売れたのであれば,借りた本人に求償できるのは100万円です。

ただ,借りた本人は,借金を既に滞納しているわけですから,「求償できます」といっても,借りた本人は無一文でしょう。

「無一文」であるだけでなく,借りた本人が破産してしまうと,この「求償」すら,免責によってチャラになってしまいます。

この意味でも,「物上保証人」には,大きなリスクがあるでしょう。

【 まとめ 】

物上保証人も,保証人と同じように,「求償」ができます。

「求償」できる金額は,担保に差し出したモノの売却代金です。

売却を回避するために借金全額を返済した場合も,借りた本人に対して,返済した額を請求できますが,これは「法定代位」なので,「求償」とは呼びません。

難しいですが,一応区別されてます(笑)。

まあ,求償にせよ,法定代位にせよ,借りた本人が一文無しである可能性が高いですし,借りた本人が破産すると,返済した分を法的に請求できなくなります。

「物上保証人」には,大きなリスクがあることを,最後に念押ししておきます。

それではまた明日!・・・↓

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