#114 信頼できる大人もいることを伝えたい-③

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,接見に行った時の事情聴取について少し書きました。

接見では,事件を起こした経緯や理由を徹底的に聴取するのですが(まあ,これは少年事件に限りませんが),事情聴取をしていくと,特に少年事件の場合,大人への不信が事件を起こした根本にあることが多いということでした。

「大人への不信」がある結果,弁護士が接見に訪れても,弁護士のことをすぐには信頼してくれません。もちろん「弁護士は味方だ」とか「弁護士と話した内容は警察には漏れないよ」とか説明するのですが,少年たちは,警察と弁護士の区別もついていないことも多いので,言葉で懇切丁寧に説明しても,あんまり効果がないこともあります。

「味方だよ味方だよ」と言葉を尽くしても,少年の心には響かないんですね。

「信頼していいよ」という言葉は,まあ,言ってしまえば,弁護士側の要望・願望を少年に押し付けているようなものです。要望・願望を押し付けたとしても,押し付けられた側は,自然と拒否反応を示してしまいます。大人への不信が蓄積された少年たちは,特にそうです。

じゃあ,どうやって少年たちと信頼関係を築くか。

信頼関係に基づくコミュニケーションをとるか。

大人への不信が蓄積されている少年に信頼してもらうのは簡単じゃないとは思いますが,信頼を獲得するための手段は単純だと思っています。

それは,約束を守ることです。

なんか本当に単純ですが,約束を守ることこそ,信頼を獲得する方法として最善だと思っています。

「約束を守る」ってどういうことかというと,接見に行った際には,「次いつ接見に来るか」「次回の接見までに何を済ませておくか」など,少年と今後の予定について話すのですが,そこで話したことは,必ず守る。

接見に来ると言った日に必ず接見に来る

次回の接見までに済ませておくと言ったことを必ず済ませておく

なんかめちゃくちゃ当たり前のことを書いていますね(笑)。仕事をしていたらこんなことは当たり前ですが,こういった約束を守ることが,信頼関係の基礎になると思っています。約束を守ることを積み重ねていくと,「あ,この大人は約束を守ってくれるんだな」「約束を守ってくれる大人が『味方だよ』と言ってくれているんだから,味方と思って信じていいのかな」と少年も思ってくれる。

約束を守ることの積み重ねが信頼関係を築くのです。

特に,少年って,この積み重ねに応えてくれるんです。それが嬉しい。表情が明るくなってきますから。少年との信頼関係が構築されて,その信頼関係に基づいて事件に立ち向かう,少年自身が自分の更生について考えるようになる・・・これが,少年事件の醍醐味なわけですよ。

おそらく,成人の場合と少年の場合とで,刑事事件を区別して処理することを定める少年法に反対の意見の人もいると思いますが,僕は,少年法の存在意義はあると思っています。

そもそも,少年法が成人と少年を区別して処理する理由は,少年の「可塑性」です。難しい言葉ですが「可塑性」というのは,「柔軟性」とも言い換えられるでしょう。

少年は,年齢的にまだ未熟で,まだ自我の形成途中であるから,成人のように刑罰を下すのではなく,それとは別に更生プログラムを設けることで,更生を図るほうがいい。なぜなら,まだまだ若くて未熟な少年は,その柔軟性ゆえに,更生する可能性も高いから。

少年事件をやっていると,こういった少年法の存在意義を感じます。

少年は,大人に比べてやっぱり素直なんですよ。きちんと僕が約束した日に接見に行くと喜んでくれます。これが,大人にはあんまりないような気がします。

もちろん,僕は,大人の刑事事件にも,同じ対応をします。約束した日に接見に来て,次回の接見までに約束事を済ませておきます。信頼関係を築くには,この方法が不可欠と思っていますから。

ただ,大人は表情が変わらない人が多い。「信頼してもだまされる」というような,いわば「大人の世界」を知っているからなんでしょうかね。

とはいえ,約束を守ることをやめるわけにはいきません。約束守ることすらやめてしまうと,薄氷の信頼関係すらなくなっちゃいますから。大人は約束を守ることにプラスの評価はしませんが,約束を守らないことにマイナスの評価はします。このマイナスになっちゃうとマズイので,それは回避します。

僕以外にも,少年事件について書いてあるブログはたくさんあると思いますが,僕がこのブログで強調したいのは,

・少年事件の根幹には「大人への不信」があること

・少年は弁護士も「大人」とみなすものの約束を守ることを積み重ねると「弁護士への不信」が改善されること

です。

そして,ここからは,僕の独りよがりかもしれませんが,「弁護士は信頼できたなぁ」と思ったというその経験自体が,その少年の人生にとってプラスとなると信じています。

僕の持論(アドラー心理学)では,他人への信頼が幸福に至る不可欠の要素です。だからこそ,弁護士を信頼し,その信頼に弁護士が応えてくれたという経験が,少年自身の幸福に不可欠な「他人への信頼」につながると思います。「大人は信頼できるんだ」という経験こそ,少年には必要なんです。

もちろん,少年事件を処理していった結果,少年院を回避したという結果も伴えば,その効果はより高いのでしょうけど,仮に少年院送致という結論になったとしても,「信頼に応えてくれた」という経験は,少年の人生の幸福に寄与すると思っています。

だから,僕は,「信頼できる大人もいるんだな」と思わせることが,少年にとって,更生の第一歩になると信じていて,その信頼関係を築くのは,弁護士にとって大事な使命と考えています。

そして,繰り返しになりますが,信頼を築く方法は,地道に約束を守ることです。

・約束した日に接見に行く

・次回接見までの約束事をきちんと済ませて接見に臨む

これを繰り返すことが,少年の人生にとってプラスにもなる,弁護士との信頼関係を築くために必要となります。

なんか,こう書いてくると,弁護士という職業とはあまり関係ない結論に至りましたね(笑)

弁護士という職業に関係なく,約束の日時を守るとか,約束事をきちんと済ませるのは,一般的に,人と人が信頼を気づく上で必要なことですよね。

弁護士について書いていると,結局,「弁護士関係ないじゃん」と思える結論に至ってしまうのは,おもしろいなと思うと同時に「当たり前か」とも思ってしまいますね。

それではまた明日。


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