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【生成AI】ChatGPTとClaudeの比較#9 日本語ローカライズ


はじめに

どうも、Ludenです。久々の生成AI比較シリーズです。
今回のテーマは映画やゲーム内のセリフの英語から日本語へのローカライズです。

単純な日本語の表現力だとClaudeが優秀なのは明らかですが、ローカライズとなると、文脈や翻訳するシーン情報、登場人物など、純粋な日本語力以外の要素が絡んできます。また、その国の文化や慣習を考慮し、相応しい文章表現をする必要があります。

特に一人称、二人称、語尾など、英語と日本語とでは、これらに対する概念が異なります。
例えば、一人称が「僕」と「俺」とでは、キャラクター性が違ってきます。セリフについて、丁寧語で訳すべきかどうかも、単純な英文では判断できない時があります。

余談ですが、天才的なローカライズをしているゲームを1つ挙げると、『Ghost of Tsushima』です。

ご存知の方も多いと思いますが、このゲーム、海外が作ったにも関わらず、とんでもなく日本要素のクオリティが高いです。
洋ゲーあるあるのトンデモジャパンも良いですが、このゲームのローカライズに携わった開発陣には敬意を払いたい。

さて、前置きが長くなりましたが、
今回の検証では、ChatGPTとClaudeの両方にシーンの状況説明を予め与え、日本語訳の結果を見ていきたいと思います。

検証内容

やることは単純。
・ChatGPTとClaudeの双方にシーンの説明(必要に応じて人物説明)
・原文を貼り付け、シーンに沿って吹き替えてもらう。

英語圏のローコンテクスト文化と日本語圏のハイコンテクスト文化の違い。シーンに合う自然な雰囲気を出すためには情報の削ぎ落とし、言葉の置き換えが必要です。
果たして、ChatGPTとClaudeの吹き替え力は如何なるものなのか。

コンテンツは両方のLLMが学習していない新しいものを選定し、公式の日本語訳をAIがそのまま出力しないようにします。

映画のワンシーン

『イコライザー3 THE FINAL』(2023年9月1日公開)

Scene 1

Nine seconds. That's what I'll give you to decide your fate. Nine seconds.

https://www.imdb.com/title/tt17024450/quotes/

9秒だ。それが君たちの運命を決める時間だ。9秒。

ChatGPT 4o

9秒だ。お前の運命を決める9秒をやろう。

Claude 3 Opus

先日アマプラで見た映画から引用。

イコライザーシリーズを見たことある方なら分かると思いますが、主人公が敵を倒す前に、何秒で倒すかを伝える「いつもの」セリフです。
日本語吹き替えで脳内再生した時、しっくり来るのはClaudeの方ですね。
その場の敵全員に対して言っているのか、あるいは敵のボス1人に対して言っているのか、ChatGPTとClaudeとで解釈が分かれました。

ちなみに、実際の日本語吹き替え音声はというと・・・

9秒。あんたの運命を決めるまでの時間は…9秒だ。

わずか9秒で片付ける、最強の男マッコール/『イコライザー THE FINAL』【本編切り抜き】
Youtube ソニー・ピクチャーズ公式チャンネル

大塚明夫の声でこれを再生してください。痺れるぜ….。

次もイコライザーから、別のシーン。

Scene 2

Robert McCall: Is that a Timex?
Marco Quaranta: No, it's a B...
Robert McCall: [grabs Marco's arm] That's the median nerve that I'm compressing. On a scale one to ten, that's two. That's three. You don't want me to go to four. I go to four, you shit yourself. You don't want that. I don't want that! They don't want that! Tell your compadres that they can leave. Tell them to beat it!

https://www.imdb.com/title/tt17024450/quotes/

「それ、タイメックスか?」
「いや、これはB…」
(マルコの腕を掴みながら)
「今、俺が圧迫しているのは正中神経だ。痛みの強さを1から10で表すなら、これは2だ。今、3になった。4に行きたくないだろう。4まで行ったら、君は漏らすことになる。それは君も望んでないし、俺も望んでない!仲間に伝えろ。今すぐここを出て行け、と!」

ChatGPT 4o

「それは、タイメックスか?」
「いや、違う、これはブ...」
(マルコの腕を掴む)
「今、お前の正中神経を圧迫している。痛みのスケールで言えば、今が2だ。これが3になる。4にはしたくないだろう。4になったら、お前は漏らすぞ。そんなことお前も望んでない。俺も望んでない!奴らだって望んでやしない!お前の仲間どもに言え。さっさと消えるようにな!」

Claude 3 Opus

はい、どちらも緊迫した状況を表現している、素晴らしい訳だと思います。
主人公が、自分を助けた恩人を脅迫しているチンピラに対し、逆に脅しをかけている緊迫したシーンです。

「Tell your compadres that they can leave. Tell them to beat it!」

"Tell them to beat it!"というのは「出ていけ!」の強調表現的なスラングで、そのまま訳すと、冗長になります。どちらもそこは省略していますね。
口調はClaudeの方が統一感がありますね。二人称の「お前」というのが、チンピラに対する主人公の怒りが滲み出ており、シーンの雰囲気に沿っています。

また、細かいところで、ChatGPTとClaudeとで、強調している部分(=原文から残している部分)が若干異なるのも興味深いです。

個人的に、Claudeの「そんなことお前も望んでない。俺も望んでない!奴らだって望んでやしない!」の強調表現がかなり良いなと思いました。
まあ、あとは好みの問題ですかね。

参考までに、DeepL翻訳を添えておきます。(3番目のセリフ):

「正中神経を圧迫しているんだ。 10段階で言うと2。 これは3だ。 僕に4まで行かせたくないんだろ。 私が4番を取ったら、あなたはクソを漏らす。 そんなの嫌だろ。 私はそれを望んでいない! 彼らはそれを望んでいない! 仲間には出て行っていいと言え。 彼らに、それを打ち負かすように言ってください!」

DeepL翻訳

これはこれで味があって良いですね。

「私が4番を取ったら、あなたはクソを漏らす。」

ジワる。

ゲームのカットシーン

『黒神話:悟空』(2024年8月20日リリース)

My Master - safe.
The scriptures- sound.
All I ever wanted was a life in my mountain, free from you, and your so-called merits.
Those high above don’t trust me. I understand that.
And they send you and those knuckleheads to threaten me to obey and serve once more.
Hmm, I understand that too.
But what I don’t understand is… you bastards killing my kind!

Black Myth Wukong - Opening Cutscene

最近Steamで絶賛されている、個人的に気になっているゲームのオープニングのカットシーンから抜粋。
かなりクオリティの高い中華ゲームです。

ロマンが詰まっている壮大なシーンです。今回は英日ローカライズがテーマなので、英語音声から抜粋します。中国語音声だと全然違うことを言っているので、ローカライズにおける言語の違いはやはり興味深い。

師匠は無事だ。
経典も守り抜いた。
俺が望んでいたのは、お前たちやそのくだらない美徳から離れ、山で静かに暮らすことだけだ。
天の者たちが俺を信じていないのは分かっている。
だからお前たちやその手下を送り込んで、俺にまた従わせようとするのも理解している。
だが、理解できないのは…お前たちが俺たちの仲間を殺すことだ!

ChatGPT 4o

俺の師匠は無事だ。
経典は無傷のまま。
ただ望んでいたのは、てめえらから解き放たれ、俺の山で自由に生きることだけだ。
天上の連中が俺を信用していねえのは分かってる。
そしてお前らを送り込み、俺に脅しをかけ、再び服従と奉仕を強いやがる。それも分かってる。
だが、俺には理解できねえことがある...お前ら畜生が、俺の仲間を殺したことだ!

Claude 3 Opus

Claudeの方が表現が豊かで、場の雰囲気に合わせ、劇のように、徹底した意訳を行なっていることが分かると思います。ChatGPTの方は元の英文に忠実ですが、やはりどこか機械的に感じてしまいますね。

おまけ

I am the bone of my sword.
Steel is my body, and fire is my blood.
I have created over a thousand blades.
Unknown to Death.
Nor known to Life.
Have withstood pain to create many weapons.
Yet, those hands will never hold anything.
So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS!

英霊エミヤ:宝具「無限の剣製」詠唱

我は剣の骨
体は鋼でできている。そして、血潮は鉄
幾たびの戦場を越えてきた
ただの一度も敗走はなく
ただの一度も理解されない
彼の者は常に独り、剣を鍛てきた
故に、生涯に意味はなく
その体は、きっと剣と成る。
そう、祈りを捧げよう。
Unlimited Blade Works!

ChatGPT 4o

ChatGPT、莫大な学習データを自慢するかのように、ほぼ原文を引用。

骨は我が剣となる
我が身は鋼鉄、血潮は灼熱
我は千の刃を鍛え上げた
死神すら知らず
命すら知らず
幾多の武器を創るため
幾度となく痛みに耐えた
されど、この手は何も掴むことはない
ゆえに我は祈る、無限の剣製!

Claude 3 Opus

Claude 3 Opus、著作権の観点から原文引用せず、独自に解釈して日本語化したとのこと。流石です。


まとめ

ChatGPTとClaudeのローカライズについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
概ね予想はついていたのですが、やはり文学的表現はClaudeの方が上手だと思います。
かつて、有志の人たちが海外ゲームの日本語化MODを作成していた時代がありました。(今もやっていますが)

最近、海外産のSteamゲームでやたらと日本語が上手いのは、もしかしたら生成AIが活用されているのかもしれません。

次もこのシリーズでは、特定のテーマに沿ってChatGPTとClaudeの検証を行いたいと思いますので、興味ある方はぜひお付き合いください。


コラム:英語と日本語の「コンテクスト」の違い

英語と日本語の言語としてのコンテクスト文化の違いについて軽く説明いたします。 ここでいうコンテクストは文脈と解釈して問題ありません。

英語はローコンテクスト文化

コミュニケーションにおいて情報が明確で直接的に伝えられる文化です。文脈に依存せず、言葉そのものに多くの情報が詰め込まれており、発言や文章の意味が明確に伝わるよう、細かく説明されることが多いです。逆に、必要な情報が足りないと、意図が通じないということです

日本語はハイコンテクスト文化

コミュニケーションにおいて多くの情報が文脈や背景、暗黙の理解に依存する文化です。言葉そのものには少ない情報しか含まれず、相手が背景知識や状況を理解していることが前提となることが多いです。つまり、日本語圏(日本だけですが)では、相手の意図を少ない情報から察する能力が求められます。

具体例

コンテクストの違いによって応答する内容が異なる例があります。例えば、相手からの誘いを断る時とかですね。

英語の例(ローコンテクスト文化)

英語では、相手の誘いを断る際に、具体的な理由を述べたり、直接的に「No」と言ったりすることが一般的です。
例:

  • "I'm sorry, I can't make it on Friday. I have another commitment."

  • "Thank you for the invitation, but I'll have to pass this time."

  • "I appreciate the offer, but I'm not interested."

これらの表現では、断る理由が明確に伝えられ、相手にはっきりと意思が伝わります。言葉そのものに多くの情報が含まれており、誤解の余地が少なくなるように工夫されています。

日本語の例(ハイコンテクスト文化)

一方、日本語では、相手の誘いを断る際に、直接的な否定を避け、曖昧な表現でやんわりと断ることが一般的です。これにより、相手の感情を傷つけないように配慮しています。
例:

  • 「すみません、ちょっと...」

  • 「申し訳ないんですが、今回は...」

  • 「うーん、ちょっと厳しいかもしれません。」

これらの表現では、「ちょっと…」や「今回は…」といった曖昧な言葉が使われ、具体的な理由や直接的な「No」は避けられます。相手が文脈や状況を読み取り、「これは断られているんだな」と察することが期待されています。また、断る理由を明確にしないことで、相手との関係を円滑に保つ意図が込められています。
日本語訳された洋書を読むと分かるのですが、純粋に日本の著書よりも読みにくいというか、いかにも英訳という感じがするのは、おそらくコンテクストの違いではないかと推測します。英語の文章は日本語における解釈の必要以上に情報が含まれているので、表現も異なってくるのではないでしょうか。

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