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令和の歳時記 サギソウ


「自然に抗わず受容する生き方こそが強い」

地球というのは実は気まぐれなのだろうか、それとも規則正しいのか。毎年「今年は異常気象」というニュースが流れる。でも毎年続くのであればそれはもう異常気象ではないと思う。

もちろん、地球の自然に対してあれこれと文句を言うのは人間だけである。自然の中へ出かけると生き物たちは毎年同じサイクルで命の連鎖を行なっているから、こちらの方が40億年の地球の歴史を受容していると言わざるを得ない。

環境の変化に抗わず適応しているから、種の保存でも人間なんかより勝ち残るだろう。

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サギソウの名前の由来は“白鷺(しらさぎ)”が翼を広げた姿に似ているから名付けられたと言われている。しかし実際には白鷺という鳥は存在しない。

サギの仲間にはコサギ、チュウサギ、ダイサギ等の鳥があって白鷺はそれらの総称なのである。確かにこのサギソウはサギが翼を広げ滑降してくる姿に似ていて美しい。

特に花の先端のギザギザ部分がサギの翼のそれにそっくりだ。また、花粉が湿地に向かって飛び出しているのでサギの頭部を彷佛させて尚更カッコ良い。

改めてサギソウと命名した人の感性に尊敬の念を感じてしまう。

サギソウは真夏の炎天下に咲く花でランの仲間である。

ランの花の多くは自己主張が強く、大きく、しかも派手な印象が強いが、このサギソウはどちらかというと「涼しげな顔」を見せてくれる。

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開花した大きさは約30~40ミリ。主に日当たりの良い湿地帯に多く咲いている。白く佇んだように咲いている姿を見ていると猛暑も和らいでいくような気がしてくる。

そして白い“翼”を瞬かせて、ひとつ風を送ってくれそうだ。

都市部に住んでいると無性に緑が恋しくなる。わたしは毎年ある里山へ行って、山を散策した締めにこのサギソウとの会話を楽しんでいる。

セミの声も都市で聞くのと山の中で聞くのはまったく異なるから不思議だ。このサギソウも園芸店には多く出回っている。

でも実際、野生のサギソウを見ると心が洗礼されたような気分になるのだ。それはやはりサギソウを取り巻く周囲の環境が“自然”だからである。

そっと息を吹き掛けて揺らしてみる。可憐であるが力強さで漲っていて、売り物とは格が違う。本当にサギが川面の魚を目指して滑降している様な錯角すら覚える。

このサギソウが咲いている湿地帯の生態系を調べてみた。生き物の豊潤さにあらためて気付き驚いた。

水中には無数のミジンコやボウフラ、ミズカマキリ、水上にはトンボやチョウ、ミツバチなどが乱舞している。水温も一定で汚染されていない。

サギソウが咲く森は、自然環境がうまく調和されており生き物が集う美しい森の証明でもある。

しかし、近年そういった森が減少しているのは事実であり、このサギソウを見ているとちょっと悲しい気分になってしまった。

夏の青空に舞うサギに倣って、一輪捥いで「浮かべてみたい」と非常識なことを考えてしまった。もちろんそんなことはしない。

想像で楽しむ自然との付き合い方を貫くことが、未来を守る近道だと思う。見上げた空にダーウインが見えた気がした。

分布●本州、四国、九州、台湾、朝鮮半島まで広く分布している
生息地●低地の湿地帯でよく見られる
花期●7〜8月  
高さ●15〜50㎝

学名●Pecteilis radiata (Thunb.) Raf.
シノニム●Habenaria radiata (Thunb.) Spreng.
和名●サギソウ(鷺草)

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