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令和の歳時記 ソバ

「まさかこんなところに?」と目を疑った。わたしは本州の南の地方都市に住んでいる。海に近いので、年中風が吹いてくる。

冬は寒いが北国のそれとは比べると失礼になるので、用意に「寒い」とは言えない。ソバのイメージはどちらかというと“北国”の作物と思っていた。

夏の長野や秋の富山などへ出かけると、一面がソバの花で覆われている光景を見た経験が何度もあるからだ。

先日、近くの河川敷を歩いている時にソバの群生を見つけたのだ。しかもいまは11月。

いくら海側の町とはいえ、長袖もしくはアウターを羽織らなければ風邪をひきそうな季節だ。


夕暮れの川面を背景に銀色に光るススキの無数の稲穂。長いものもあれば短いものもあり、不揃いなのが良い。

柔らかい風が吹いたら、一斉ではなく、テンポをずらして揺れていくのが良い。まるでお遊戯しているちびっ子たちのようで愛しく感じる。

そんな晩秋に自己陶酔していたわたしの目に飛び込んできたのが「ソバ」だったのだ。

河岸一面に咲いている。この場所は月に何度も訪れる場所なのにまったく気がつかなかった。

最初から北国のイメージのあるソバを除外していたのと、好奇心が希薄になっている自分にショックを覚えた。

近づいて確認してみる。間違いなくソバの花だ。田舎臭い“匂い”がその証明だ。たくさんの小昆虫が集まって受粉を手助けしている。ミツバチよりもアブ系が多いようだ。

ソバは痩せた土地でも育つから昔から重宝されてきた。わたしも蕎麦が好きなのでコロナ以前は信州へ出かけたものだ。

ふと如何わしい考えが脳裏をかすめた。「収穫して売ろうか」と。だって、この場所は個人が所有する場所でもないし、収穫したところで誰の迷惑にもならないのでは、、、。などと。

すぐさまスマホで「ソバの収穫方法」について調べようとして手を止めた。

改めてソバの花々を見ていると、笑いがこみ上げてきて、気分が良くなった。もちろんわたしのような素人が簡単に収穫などできない。

この年でソバ泥棒もシャレにならない。でも、わたしの心のどこかに「何かに挑戦しよう」という気持ちがまだまだあることが愉快でたまらなくなったのだ。

蕎麦は昔から縁起の良い食べ物と言われてる。食べる際の“切れ”の良さから厄災と縁を断ち切る意味合いもあるし、長く伸びるから延命長寿を願う食べ物とされている。

今年もまもなく終わる。夕暮れの河岸で、ススキとソバのコラボレーションを見られてとても幸せだ。

そして「まだ頑張れる」と気持ちにさせてくれたソバは確かに幸運の花になるような気がした。

分布●北海道、本州、四国
生息地●山間地や冷涼な気候の地域
花期●5〜7月  9〜10月 
高さ●60〜130㎝
学名●Fagopyrum esculentum
和名●ソバ(蕎麦)



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