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ひとりぼっちにほんとうの孤独はやってこない

あの頃は、孤独のフリをすることが、すきだったのだ、たぶん。


部屋のすみで、膝を抱えて、膝と膝のあいだに顔を挟んで、泣く。
この世の終わりだ、いつ死んでも構わない、と、思いながら、泣く。
どれだけ泣いても、誰にも何も届かなくて、さらに、泣く。
そのうち泣き疲れて、ぱっと顔を上げると、いつものベッドの上。
鼻を思いっきりかんですっきりしたら、
冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを持ってきて、
ゴク、ゴク、ゴク、ゴク。
孤独は、ビールの泡と一緒に、ぱちんぱちんと消えていく。

今思えば、孤独のフリのために泣いていた自分が、可愛らしい。
孤独ぶることが、おとなの女で、かっこいい女だと思っていた、私。
だから、江國香織が、すきだったんだな。

ほんとうの孤独は、とってもとっても苦しい。
しくしくなんて、泣いてらんないんだ。


夫が目の前にいて、夫に伝えたいことがあるのに、ことばが出てこない。
言っても無駄という諦めと
もしかしたらわかってくれるかもという期待が
いつまでも拮抗して。
そのうち、夫のなにかひとことに打ちのめされる瞬間が先にやってきて、
ジ・エンド。
夫が自室に引き上げた後、
猛烈な孤独と共に、過呼吸がやってくる。
ハア、ハア、ハア、ハア。
手の甲に、爪を立ててできた傷と、孤独が刻まれていく。

孤独は、結婚した途端、体のなかに棲みつくようになった。
ひとりからふたりになって、ほんとうの孤独を知った。
今は、孤独をうまく飼い慣らして、こうして文章なんかに昇華している。


孤独というやつは、一生のテーマです。
あなたに棲みつく孤独が、きょうは、穏やかであることを願って。

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