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政党の興行的政策

コラム『あまのじゃく』1951/3/18 発行 
文化新聞  No. 96


似て非なる映画製作と政治社会

    主幹 吉 田 金 八

 映画会社が映画を製作する態度は、あくまでも興行価値本位であり、作った映画が観客に向けて大当たりを取る事を本旨としている。
 ただ文化事業であるとの誇りと責任が、映画企業者は、さらに原作者の意図を尊重しなければならず、脚本・監督者達の文化人としての良心も織り込まれており、比較的程度の高い観客層や映画批評家の眼も怖いので、会社側の採算本位にもある程度掣肘されながら、かろうじて一国文化の最低線を維持しているのではあるまいか。
 映画会社が、営利企業である限りこれもやむを得ない。映画会社が動員観客数を第一義的に懸念する如く、政治家が選挙を目当てに大衆の人気を得るために行動することも、一票の行方いかんで政治家の運命が決定される民主主義政治組織下には当然のことである。
 映画会社は一作品ごとに大衆から批判され、興行成績に影響を受けるため常に観客の好むことに留意し、大衆の意向に忠実であるが、政治家は選挙さえうまくいけば四年間ノホホンで通せるので、その点選挙間際には気持ちの悪いほど選挙民に忠実ぶって人気取りに努めるが、当選してまず安心となると、選挙当時の公約や大衆への味方振りを振り捨てて、自分に都合の良い道を歩み、選挙民を裏切る政策を遂行する場合が多い。
 少数の金持ち、山持ちの利益を代表する政党でも、選挙は貧乏人の票をかき集めなければ勝利はおぼつかないので、昨今の大衆へのお世辞笑は薄気味悪い次第である。
 埼玉県議会は昨年10月県議会で社会党の強硬な反対を押し切って自由党が多数を力に可決した。農耕牛馬一頭に対して年額300円の興農税を「強い農民の反対があり今期県議選への大きな壁となっている。県民の風当たりを和らげるべきだ」(読売)との自由党の選挙対策から27年度から廃止すべしとする決議案が可決した。
 26年度の予算県議会に、殊更に来年のことをこれ見よがしに緊急動議で提出するなど、農民大衆への見え透いた選挙ゼスチュアであり、しかもこの悪税は自由党の創設であってみれば、

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」

 今さらに、彼らが真に大衆の味方ではなく、選挙の時だけ味方らしく振る舞うハイド博士的存在である。
 政治家に、世論に迎合せよと要望するわけではないが、手練手管はごめんを被りたい。政党の本体を知ること、彼らに馬鹿にされないことが肝要である。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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