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候補者にクジ引き⁉

コラム『あまのじゃく』1951/2/8発行 文化新聞第85号
【このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします。】


革新政党にも追い風?

        社長 吉 田 金 八

 所沢市の自由党では県議立候補者の戦線統一のために新井万平、斉藤徳次郎両氏に、くじを引かせて一方を辞退させるという案が保守系議員によって提案され、新井市長は受諾したと伝えられる。毎日新聞はこれを珍案と皮肉っている。

 飯能では市川宗貞氏の一千万円運動費説に早くも怯えて小林貞治氏の出馬断念が確実となってきた。
 こういった点は自民党は目先も利くし、そろばんを弾くのが上手だから話が早い。
 くじを引いて負けたほうに勇退料50万円などと言う闇取引が伴わなければ結構である。
 そこへ行くと社会党は全てが理屈っぽくて、算盤を度外視した無茶な戦争を強行して虻蜂取らずの結果を見ることが多い。
 円熟老成の自由党、血気革新の社会党、両党の性格が県議前哨戦によく表れていて面白い。
 最近の全国の知事、市長、参議院補欠選挙に社会党の進出著しいものがあり、大衆が必ずしも自由党の施策に満足していない証左が濃厚である。この際、社会党の諸君にも必ずしも自由党的妥協取引を真似ろと言うわけではないが、党勢拡大と大衆の要望の線を考慮して、無駄ダマのないよう勉強を希望せざるをえない。
 小林氏の出馬断念が誠に自由党の愛党円満のために行われたものならば別として、市川氏の金力に怯えて一千万円の選挙費をばらまかれたのでは勝ち目がない、と早合点しての進退とあれば、これまた珍談の部である。 
 市川氏がどのように金を使うかしれないが、有権者の誰もが直接金をもらうわけではあるまいし、何等の政治的経歴も無い、従って選挙民の生活に縁遠い市川氏が単に6億円の山持ち長者であると言うだけの理由で、無条件で支持が得られるか。むしろ物価は上がり、農業手間が下がるに苦しむ大衆には山持ち長者と聞くだけで反感さえも持つのではないか。
 貧乏を看板の松永義雄の参議院最高点当選の事例さえあるし、政党幹部や選挙ブローカーには最大の魅力である金権も、大衆にはウィンドガラスを隔てた高価な宝石指輪と同様でしかすぎない。
 共産党を目の敵にして追っ払われねばならないほどに困窮し、値上がりとの表面的契機に反比例して、大衆の生活は困難への進行を続けている現在、金さえ使えばといった自由党的見解通りに、選挙民が動くかどうか問題である。
 貧乏人にもそれぞれ五分の魂はある。札束で頬を叩かれれば別として、6億位では何千何万の有権者の頬は張れまい。
 時代は大きく動きつつあることを自由党の諸君もソロバンに入れる必要があると言うものである。


コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。

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