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イケメン中国人との出会い

20代のころ僕は社会人になり、将来続けられる趣味を探していて、テニスサークルに所属していた。
メンバーは30人ほど、常に活動している人もいれば、たまにしか参加しない人もおり、大学のサークルとさほど変わらない。

高スペックイケメン男子

サークルには、長身178センチのイケメンがいた。彼は中国人、テニスも上手く、それなりの大会に出たこともある実力者だった。そして、サークル内では、役職こそないものの彼が人気者であることは雰囲気ですぐにわかった。何かしらのコミュニティでは、その活動のうまい人が重宝され、人気者になりがちだ。

僕はわりと真面目に参加していて、少しずつ彼とも話す間柄になった。サークル終わりには時間があれば飲みにいくこともあった。
ちなみに、大学生のサークルでは、アフターの参加率が低いとノリが悪いとかいらぬことをいう奴がいたものだが、そこは社会人サークル、サバサバした大人の関係で、プライベートの詮索はしないことが僕は心地よかった。

そんなイケメン中国人の彼は24歳と若く、日本に来て2年、上海出身で、日本語が堪能、英語と中国語も話せるトリリンガルというハイスペ男子だった。とある有名企業でバイトをしているという。正直かなり優秀なのだから、専門的な仕事や、すぐにでも正社員になれそうだと思ったが、彼はその企業でいずれ社員になることが夢なのだといっていた。

まぁ、東京にいればたまに高スペックイケメン男子(外人)はいるものだと思った。しかし、彼にはもう一つ特徴があった。

実は彼は・・

ゲイだった。それも、いわゆるオープンゲイというやつだ。

オネエ系ではなく、見た目もモデルのような長身男子という雰囲気なので、いわれなければわからない。なぜ僕が知ったかといえば、彼から話されたからだ。サークル内でも全員とはいわないが、おおむね周知の事実だったらしい。

同じゲイ同士とわかってから、急に彼に対して親近感が湧いてしまう。そこから僕は自分がゲイとは周りに悟られないように、まるでスパイのように慎重に彼にゲイの話題をふったり聞いたりした。自分はストレートのふりをしているという少しの罪悪感がありながら。

中国のゲイ事情

中国では、ゲイの風当たりは日本とは比べ物にならないくらい厳しいらしい。法律で禁止されてはないが、場合によっては罰せられたり、告げ口されたりと、とても公にはできないそうだ。彼もそんな窮屈さに耐えかね、もともと日本が好きだったこともあって、中国から日本にきたのだという。
つまり、母国では家族にも友人にもクローズだが、日本では誰も彼を知る人はおらず、オープンゲイとして楽しくのびのびやっているということだ。
彼からはとても今の生活が楽しくて仕方がないという雰囲気が伝わってきて、何やらキラキラして見えた。きっとゲイとオープンにできて、好きな国と、好きな会社で働けているという開放感もあったのだろうか。

正直、僕の場合は他言語を話せないし、何よりも外国より日本が好きなので移住したいとは思わない。彼を陰ながら応援してあげたいなという、そんな感情が芽生えていたと思う。

ある日のサークル終わり

彼から飲みに誘われた。他のメンバーは参加できるメンツがあいにくおらず、彼からの提案で二人でも行くことになった。
そして、二人でビールを飲みながら、いつもどおりたわいもない話をしていると、唐突に彼がいままだ付き合っているはいないの?(当時、僕は付き合っている人はいなかった)とか、日本に来て2年まだ彼氏ができないんだとか、やたらと恋愛話にもっていこうとする

嫌な予感がした。自分でいうのもおこがましいことだが、クローズゲイの僕は告白するより、告白される経験のほうが圧倒的に多い。そして、相手がこれから告白してきそうな雰囲気が何となくわかる、まさにそんな感じがした。

「◯◯さんのことが好きになってしまった。もちろん私は男だけど、ほんの少しでも可能性があるのなら、考えてくれないか」

そんな内容だったと思う。
異性に告白されたときは、どうお断りさせてもらうか頭の中で打算的に考える僕だったが、この時ばかりは困惑した。ゲイなので異性には好かれないよう普段から気をつけているが、男性であって、とりわけゲイの彼にはきっと僕もどこか安心し、気が緩るんでいたのかもしれない。

(断っておくが、僕は決して思わせぶりな態度はとったことはない、サークル内では完璧なストレート男性を演じている)

彼が僕の返事を待ってか、じっと見つめてくる、その合間に色々なことを考えた。

僕のことをゲイと気づいてるのか?いないのか?
彼と付き合えばゲイと明かすことになる?
隠せるか?サークルをやめる?
せっかくコミュニティに入ったのに?
そもそも、外国人と長く付き合えるのか?
オープンゲイはお互いのために、避けるべきと決めてなかったか?
彼と付き合うと何か自分も変われるか?
若い彼の本気度はどんなものか?


いまでこそ言葉にできているが、一瞬のうちにそのようなことを無意識に考えた。

オープンとクローズの隔たり

結論、僕は彼からの申し出を断った。
恋人未満としてでもいいなどと、彼はよくわからないことを言って食い下がったりしたが、そのうち諦めたようだった。

しばらくたってから、彼は他メンバーに僕のことが好きだと相談していたこと、過去にもサークル内で好きになった男性に告白したことがあるらしいことなどを知った。
つまり、おそらく彼は僕と付き合うとしたら、サークル内にその事実をオープンにする気でいたということだろう。きっと、オープンゲイだからか、悪気はないのかもしれないが、相手の事情はあまり考えてくれていないのかなと思ったりした。
クローズの僕としては、ゲイバレして、さらにはコミュニティすら失うかもしれないという、かなり危ない橋だったわけだ。

最後まで、彼に対してはゲイと伝えることがなく、その点はフェアではなかったことが心残りだった。
サークルメンバーではなく、ゲイアプリで知り合った中ならもっと制約なく話せ、違った結果になったかもしれない。

オープンゲイからみたクローズゲイは、なんて面倒なやつと感じることだろうし、クローズゲイから見たオープンゲイは羨望やデリカシーがないやつだとか、思ったりするのかもしれない。

同じゲイでもこの隔たりは大きい気がする。
そんなことを強く感じた体験だった。

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