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32. 偽装工作。

離婚話のこと。

友人よりも誰よりも、1番知られたくない相手は、蓮だった。

だからもちろん、夫が出ていったことも一切口にしなかった。


当然何も知らない蓮は、変わりなく仕事帰りに私に会いに来た。

月、火、木、金 週4日。

彼が半休や休みの日で、昼間逢ったとしても、夜も、必ず帰宅前に私に会いに来た。


「奥さん、何も言わないの?」って聞くと、

私と付き合うまでも、まっすぐ家に帰ることはしなかったと言う。

本屋さんだったり、古着屋さんだったり、レンタル屋だったり、、とにかく、まっすぐ家には帰りたくなかったと言う。

理由は、自分の居場所がないから。

嫁は、愛情じゃなく執着で自分といるだけ。

自分に対して嫌味しか言わない。

給料が安いやら、帰りが遅いやら。

自分に対して、尊敬も感謝もない。

と言う。



あまりにも愚痴をこぼすので、1度聞いたことがある。

「じゃあ、なんで結婚したの?」と。

すると

『あいつが30歳になる年に、あいつから結婚せがまれた。』と即答した。

奥さんは、蓮より4歳年上らしい。

わりと長い年月、付き合っていたようだ。

蓮は途中、何人か浮気したらしいが、結局、奥さんの元へ。

『あいつは、ブスじゃないけど地味。で、わりと質素というか、こつこつと倹約してお金貯めれる人。だから、結婚するには、こんな人がいいかなと思った。特に別れる理由も断る理由もなかったから、結婚した。』

その言葉に、なんか、がっかりした。

まぁ、どこまでが本当かは分からないけど、とにかく、がっかりした。


が、

しかしだ。

帰りたくないという割には、毎回、逢ってる最中に、奥さんから電話がかかってくる。

必ず、毎回だ。

その電話に出る時も、出ない時も、出れない状況の時もある。

しかし、出なかった場合、必ず、蓮は奥さんにかけ直す。

そして、そのあと、すぐに帰宅する。

くどいようだが、本当に、毎回だった。

夜の公園で、まだ散歩するだけの関係だった時からずっと。

ずっとそのことが不思議だった。

それに、蓮の偽装工作も徹底していた。

夜逢う時は、化粧をしてこないこと。

口紅はもちろんファンデーションも塗ってはいけない。なぜなら、抱きついた時に、蓮の服についたら大変だから。

逆に夫に留守がばれたら、コンビニ行ってたと誤魔化す為でもある。

『わざわざ夜中にふらっとコンビニ行くのに化粧したら不自然でしょ?』と、蓮に指導された。

別れる前に、コンビニ寄ってと言われる。

蓮は缶ビールとお菓子を買ってきて、急いでビールを流し込む。なぜなら、『今日は飲み会って言ってきてるから。お酒の匂いしないとまずいでしょ。』


会社のシフト表を本物と奥さん用と作ってる。

おそらく、奥さんは、毎週、半休があることを知らない。

もちろん、半休の日は私と逢っている。



とにかく、奥さんの電話には必ず出る。

出ないと、出るまでかけてくるから。


私に電話したあとは、必ずすぐに履歴を消す。家に帰る前にも、削除漏れがないか、もう一度確認する。

絶対に私を下の名前で呼ばない。
ずっと、苗字にさん付けで呼ばれていた。

万が一、寝言で名前を言ったらヤバいから。

二人で飲食店やカラオケにいったら、絶対にレシートは捨てる。

その徹底ぶりには、いつも驚いていた。


そういえば、初めて昼間デートした時の後部座席の毛布の件にしろ、なんで?

なんで、そこまで、知恵がまわるのだろう。


『全部、あこさんの為だよ』

と、蓮は、大真面目で言った。

『バレたら逢えなくなる。

バレることより、逢えなくなるのが嫌なんだ。

あこさんと逢えなくなるなんて耐えられない。』


この、私にとっては謎だった蓮の言動の理由。

蓮が、家に居場所がないと言い張る理由、

奥さんがそこまで蓮に執着するその理由を、

ついに、知ることになる。
















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