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創作昔話 長編シリーズ1 善鬼坊

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#不動尊

創作昔話 善鬼坊(6)

だが善鬼も歳には勝てなかった いくら鬼であっても年老いてゆき 床に臥すことが多くなっていった 善鬼も最期を悟ったのか村人を呼ぶように言いつけた 何十年も村にいたのだから代替わりもあったが善鬼のことを知らないものは誰一人としていなかった 村人は衰弱しきった善鬼の言葉を聞いた 

「拙僧は元々村はずれの山に住まう

悪鬼であった 旅人を襲い その死骸を食らって

生きていた どうしようもない奴であった

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創作昔話 善鬼坊(3)

「主の今の姿は家人を主に食われた衆生の姿だ このまま改心せぬ時はこの利剣が黙っておらぬ 衆生の為に尽くし 仏弟子と為るなれば 命を助けてやろう」

と語った 鬼は情けないやら命は惜しいやらで顔面はより青白く 涙ながらに誓いを立てたのだ

不動尊は 承知したと言うや否や 鬼を洞穴に戻し 羂索を鬼の身体から取ると ふっ と消えてしまったのだ 鬼は一瞬の出来事に困惑を

隠しきれなかったが 誓いを立てた

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創作昔話 善鬼坊(2)

さて その夜 村からいくらか離れた山の洞穴に

鬼がいた 体は青く 非常に大柄であった

鬼は捕まえた旅人の亡骸を食いつくしたのか 

と寝息をたてていた 寝出したころ 東の空から

紫の雲が鬼の住む洞窟に向かってきたのである

その中からあの修験者が祈祷していた不動尊が現れ 右手に持つ羂索を眠る鬼へ投げつけるや否や 意思を持ったかのように するりと身体に巻き付いた 鬼は何事かと目を覚まし 紐をほ

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