創作昔話 善鬼坊(2)

さて その夜 村からいくらか離れた山の洞穴に

鬼がいた 体は青く 非常に大柄であった

鬼は捕まえた旅人の亡骸を食いつくしたのか 

と寝息をたてていた 寝出したころ 東の空から

紫の雲が鬼の住む洞窟に向かってきたのである



その中からあの修験者が祈祷していた不動尊が現れ 右手に持つ羂索を眠る鬼へ投げつけるや否や 意思を持ったかのように するりと身体に巻き付いた 鬼は何事かと目を覚まし 紐をほどこうとするが強い痛みが身体に走り 身動き取れぬ

状態であった 羂索は鬼を完全に縛り上げた後

不動尊のいる空中まで飛び 鬼は恐怖と死を覚悟した 不動尊は目の前にいる悪鬼を忿怒の形相で睨み付けた と同時に利剣で鬼の鋭く 凶悪な

角を切って落とした 鬼は普段より鋭く並の刀では切れぬような角を自慢としていた故か 切られてからは まるで病中の人の如く項垂れてしまった すると不動尊は 忿怒の形相のまま静かに
語った

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