【連載小説】見える二人①-2

1件目???


「小さい会社だから基本的には二人で仕事先にまで向かってもらうから。えーっと、木下くんいるかな。ちょっとこっち来て。」

社長から呼ばれた木下という男は、伊月とそこまで年も変わらない感じで雰囲気の物静かな感じの人間で話も合いそうだなと思い彼はひそかに喜んだ。

「木下礼司です。よろしくお願いします。」
「伊月くんは木下くんとペアで仕事場まで向かってね。伊月くんは何か分からないことあったら木下くんに聞いてね。じゃあさっそくだけど、仕事場まで行ってもらおうかな。」

そう言うと社長はクリアファイルから地図を出し、木下にその地図を渡した。その地図を見た木下は、ため息交じりに伊月に最初の指示を送った。

「伊月くんさ、入口の方に鍵たくさんかかってるケースあるから、そこから黒色のキーホルダーがついてる鍵を取って先に駐車場の方にいてくれない。ちょっと準備するものあるから。」
「分かりました。」

そう答えて伊月は入口の方に向かった。向かっている最中かいや、社長が木下の名前を呼んでからだろうか、会社にいた15名ほどの社員が妙な視線を伊月に向けている。人から注目されることを避けていた伊月は他者からの視線を敏感に感じるようになっている。午前10時、伊月は少しいやな気分になりながらの初仕事となってしまった。

 入口で鍵を取り駐車場で木下を待っていると、小走りで木下がこちらへやってきた。
「ごめんね、待たせて。これ着けて。」
そう言って渡してきたのは数珠であった。こういう仕事だから着けなければならないのかと思い、伊月は少し違和感を感じたものの決して嫌なわけではないので着けた。それから二人で車に乗り現場に向かった。車に乗りしばらくして無言が耐えれなくなったのか木下から伊月に話しかけた。

「伊月くんはいくつ。」
「僕はいま25です。」
「そうか、じゃ一つ違いだね。僕26なんだよ。」
「そうなんですか。」
「そうだ、社長の奥さんって見たことある。」
「はい、面接の時に一度社長室の方から来るところを見たことがあります。」
「きれいな奥さんだよね。」
「そうですね、社長の年齢の奥さんにしては若い人だなぁって思いました。」このまま他愛のない話が続くと伊月は思っていたが、木下は突然。
「伊月くんはさどれぐらいお化け見えるの。」
「えっ。」

霊が見えることも何も言っていないのに決めつけるかのように伊月に言った。
「隠さなくてもいいよ。俺と一緒のペアになってる時点で見えるってことだから。」
「えっ、あの、それどういう意味ですか。木下さんも見えるってことですか。」
「そう、まぁ、確信したのはさっきの質問だけど。」
なるほど、社長の奥さんはもう亡くなっているのか。さっきの妙な視線もこいつは霊が見えるやつなんだという目線か。と伊月は木下の言葉でそこまでの合点がいった。

「社長の奥さんいないんですね。」
「そう、気づいたの俺なんだ。話の流れで奥さんきれいですよねって社長に言ったらさ、社長泣いて。そのときにあっ、奥さんもういないんだって思ったんだよ。それで霊が見えることもばれて、隠したかったんだけどね。」
「でも、僕社長から聞かれましたよ。うちの奥さんきれいでしょって。それに霊が見えてたら、なんで木下さんとペアなんですか。」
「遺品整理の仕事って基本的にはほとんどが遺品整理できる家なんだよ、でも時々できない家もあるの、できる家は依頼されてるし手伝うことができる。できない家は依頼されていないか依頼されてても手伝えない家。」

木下の言う手伝えないの意味を、伊月はこのときよく理解できなかった。この話の流れからておそらく霊が何かしてくることなんだろうと漠然とだがこのときはそう思っていた。

「その依頼されてても手伝えない家を手伝うのが俺らの仕事。たとえば、身寄りのない人の遺品整理とか事故物件とかいわゆる普通の人がしないような仕事かな。」
伊月からすればもう少し説明してもらいたかったが、現場についてしまったがために説明は終わってしまった。




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