【短編】じいちゃん分かるかな?
ある日、家族のLINEが動いた。
母からである。
「じいちゃん食道ガンみたい。」
俺が生まれる前に父方のじいちゃんは亡くなっていて俺にとっての唯一のじいちゃん。
少し前から具合が悪いのは知っていた。じいちゃんも歳だし、まぁそういうことにもなるよな。
じいちゃんは俺が物心ついた時から今とさほど変わらない見た目で、大声で笑うことはなかったし、昼間に会うといつもNHKで相撲かのど自慢を見ていたじいちゃん。
俺は人の過去についてあんまり覚えていないことが多い。両親の馴れ初めや友達同士での出来事、何度も聞いてるが初めてのようなリアクションを取る。おそらく人に興味がないことが原因だと思ってる。
そんな俺はじいちゃんの過去のことはあまり忘れない。
じいちゃんの仕事は日本でも数少なくて今はしている人がいないような仕事をしていた、いわゆる職人と呼ばれるような人だった。
若い頃ボウリングがめちゃくちゃ上手くて、ストレスを発散する方法がボウリングしかなかったからボウリングで何回もパーフェクト取るし、ボウリングのトロフィーが山ほどあったらしい。
じいちゃんは車が好きで、過去には外車なんかも何台も買ってたみたい。
でも、歳のせいでじいちゃんはどんどんボケていってる。
もしかすると近いうちに俺のことも思い出さなくなるかも、
もしかすると今俺が覚えていることも忘れてしまうかも、
もしかすると家族のことも忘れてしまうかも、もしかすると自分がどんな病気なのか忘れてくれるかも、
もしかすると嫌なことだけ忘れてくれるかも、
もしかすると家族の名前だけ覚えているかも、
もしかすると、、、今まで俺はじいちゃんに何もしてあげれなかった。
そりゃ忘れちゃうよな。
俺はまだじいちゃんと話せてない。どんな顔して話せばいいのかも分からない。
今はまだじいちゃんの前に姿を現したら、名前呼んでくれるかも、でもいつか分からなくなるのかも。
孫がこんなこと考えてるなんかじいちゃんは分かってないんだろうな。
じいちゃんは今どういう病気か自分で分かるかな。
分からないでいてほしいな。
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