【連載小説】見える二人①-4
伊月は車の中に戻っても依然として動揺している。木下はそんな伊月の背中をさすりながら身の上話を口にした。
「伊月くんはどういう経緯で霊を見えるようになったのかは分からないけどさ。俺には六つ年の離れた弟がいて、母親は弟を産んでそのまま死んじゃったのよ。小学生になったばっかりだった俺はさ、弟が母親を殺したぐらいのことを思ってたんだ。弟さえいなければ母親は生きてたのになって。俺がそんなこと思ってたからかな。弟は五歳のころに入院したのよ。珍しい病気でさ、手術をすることは出来ないし、どんどん筋力も無くなっていって歩けなくなっていって、医者には余命半年もないかもしれませんって言われてて。それを言われてから毎日病室行ったんだよ、行けば笑ってくれる弟がいて、辛いリハビリとかして泣いていても俺と父親が来たら笑ってくれて、なんで俺は弟のことあんなふうに思ってたんだろって明日から兄らしいことを弟にしてあげようって思ってた。でもそう思ったその日の夜に、弟は昏睡状態になった。
俺と父親が病室に着いたときに、弟のそばに座ってる女の人がいて。それが母親だったんだよ。母親は泣きながら弟の肩ゆすろうとしてて、でも死んでるからさ、ゆすれないんだよ。だから代わりに俺がゆすったんだよ。でも、弟はそのまま死んで、それから霊が見えるようになって。その時に霊は何も出来ないんだって思った、いくら愛する我が子を、自分が命を懸けて産んだ子供を、ゆすることも出来ない。だったらせめて誰か手伝える人がいればなと思ってこの仕事を始めたんだ。」
伊月はその話を食い入るように聞いた。
亡くなった人のために手伝うという木下の考えに伊月は感嘆し、それと同時に自分自身への劣等感を強烈に感じた。
「すごいですね。」
木下に対して言ったこの伊月の一言は、尊敬というよりもどこか自分との関わりがない人の話を聞いているような感覚で答えた。
「まぁ、慣れるよ、伊月くんもこの仕事に。俺みたいな理由なんてなくてもいいと思うし、続けたいと思えるなら続けたら。」
「はい、そうですね。」
伊月はそっけない返事をし、木下との距離を少しとってしまった。
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