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【企画】夜行バスに乗って

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2024.3月に行われた企画の収納マガジンです。 夜行バスに乗って新宿に向かう人々、見送る人々、あるいは……!! 珠玉の note クリエイターが描く、春の群像劇をどうぞみなさま…
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#創作

【シロクマ文芸部×夜行バスに乗って】卒業前夜

 卒業の日を迎える娘の晴れ姿を見るために、新宿へと向かう夜行バス乗り場に歩みを進める。距離があるので新幹線に乗ろうかとも思っていたけど、いい機会なので一度乗ってみたかった夜行バスに乗る事にしたのだ。  夫は仕事が休めないとかで私一人で卒業式には出席する。私もこの時期に有給をもらうのは気が引けたけど、仕事は十分に調整して休みをもらった。こういう時でないと一人で旅行する事も無いので一日余分に滞在して、行ってみたい所に行こうと計画している。娘の卒業式も楽しみだけど、実はこちらの方

名もなき夜に【#夜行バスに乗って】

帰る、ということは 帰る場所がそこにあるということだ。 帰る場所には待っている人がいる。 それで初めてそこがホームとなる。 僕の帰る場所と呼べるところは、 もうどこにもない。 東京の部屋はただそこに居を構えているだけで、帰る場所という言葉には値しない。僕の帰る場所はずっと、生まれた時から住んでいたあの家しかなかった。 だけど、父を追うように安らかに空へ還った母の葬式を終え、実家を処分して荷物を整理し終えると、そこはもはやただ仕切りで区切られた空間でしかなかった。 夕

【短編小説】春と風#夜行バスに乗って#シロクマ文芸部

(読了目安7分/約4,900字+α) 『春と風林火山号に乗って新宿に行こう!』ツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます。このバスは21時00分に出発し、途中〇〇サービスエリアに23時00分、△△サービスエリアに2時00分、〇△サービスエリアに4時00分、終点バスタ新宿へ6時00分到着予定です。私、乗合が運転手を務めます。どうぞ到着までよろしくお願いいたします。 23時00分 〇〇サービスエリア  特に尿意は無いが、僕は固まった体を動かそうとバスを降りる。タラップ

多様性暴走バス #夜行バスに乗って【企画参加】

 友達とカフェに入って、隣の席に自分の母親と同じような年頃の女性がひとりで座っていたら、ほぼ100%、話は聞かれていると思っていい。ひょっとして、運悪く小説家や脚本家志望の人物や、邪な人間が隣になることもあるかもしれない。話す内容には気をつけた方がいいだろう。  今、そう、たった今も、私は隣の席に案内されてきた娘のような年頃の若い女性同士の会話に耳を傾けてしまっている。  私はその時、某有名珈琲店で仕事をしていたのだけれど、彼女たちが席についてからは、もはやただ画面を見つめ

【創作】夜行バスの悲劇

※この創作は  体調の悪い方、また  グロテスクな表現に弱い方は  決してお読みにならないでください。  ある意味ホラーです。 東京へ帰る手段は夜行バスにした。 新幹線よりもお値打ちだし 最近の夜行バスは とても快適だと聞いたから。 私は乗り物酔いをする。 だから長時間乗る夜行バスは 乗ったことがない。 「最近のバスはあまり揺れないから  前の席に乗れば大丈夫。  嫌な臭いも少ないし  寝ている間についちゃうよ」 私の頭を大きい手で 優しく撫でながら言った彼のことばに