霜田つき

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  • 【小説】万華鏡ロジック

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【小説】『万華鏡ロジック』 五話

 昨日、4月3日午後8時ごろ都内に住む女性が両腕を切断された事件で、彫刻家の辻村伊佐治(32)が傷害容疑で逮捕された。  同庁によれば、辻村容疑者は自身の自宅で医療用メスのようなものを使用し、女性の両腕を切断した後に自ら119番通報をしたとみられる。女性は都内の病院へ搬送され命に別状はない。辻村容疑者は「過去に衝動を抑えきれず、女性を切りつけた」などと供述しており、他にも余罪があると見られ警察は捜査している。  ――被害者の女性は過去に身体完全同一性障害であるためカウンセリ

    • 【小説】『万華鏡ロジック』 四話

       日が落ち始め、あたりは薄暗くなりかけていた。  待ち合わせは馨と二人で訪れたことのある喫茶店。二日前に紹介したい人がいると馨からそう告げられ、その相手がどんな人物なのか詳しく聞く間もなく彼女は帰っていった。あの時の彼女は少し笑っていたような気がする。  人通りの多い繁華街をぬけて静かに建物の影に隠れたところにその喫茶店はある。目的地についた僕はドアを押した。頭上でカランカランとベルの音が鳴り響く店内に足を運んだ。モダンで落ち着いた内装にオレンジ色の光に包まれた店内には三人の

      • 【小説】『万華鏡ロジック』 三話

        「落ち着きましたか?」  馨は涙を流す彼女へ静かに声をかけた。 「……ごめんなさい。私……最近、じょうちょがアンテーしなくて」  涙を裾で拭い、鼻を啜りながら彼女は答える。  まだ泡を張っている淹れたての熱いコーヒーを一口飲んだ。温度が冷めることで時間の経過を体感した。 「こんな話を聞いてくれて……ありがとう、……あなたくらいなのよ、私が生きてきたなかで一番、真剣に話を受けとめてくれたのは……」  辻村という男は人からの愛情に飢えた孤独な厭世家だ。私の対面に座ってい

        • 【小説】『万華鏡ロジック』 二話

          「どうして誰も分かってくれないの?」  二人は喫茶店にいた。  嗚咽を漏らしながら話している二十代前後の女性は暗い茶髪に染色された髪をハーフアップに纏め、白とベージュの色を中心としたワンピースを身に纏っていた。カオルは彼女の対面に座り、コーヒーを啜っている。女性はカオルが絵のモデルを依頼させてもらっている相手である。馨は彼らと交流する事により絵を描くためのインスピレーションを得ることができた。 「私は可笑しくなんてない……正常って、普通ってなんなの? 私は病気じゃないわ!」

        【小説】『万華鏡ロジック』 五話

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        • 【小説】万華鏡ロジック
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          【小説】『万華鏡ロジック』 一話

           帰り支度していると背後から声がした。 「馨、実はキミをモデルにした作品を造りたいと思っているんだ」  短髪に筋肉質な体格。いつ汚れても良さそうな服を身に纏い、見るからに体育会系という言葉が似合う目の前の男、辻村伊佐治はそう切り出した。  辻村は彫刻家である。  そして出されたティーカップに注がれている紅茶を眺めながら、いま切り出された話にすぐ返答するより先に思考を巡られた。  三ヶ月前。馨と彼が初めて会ったあの日、馨はとあるアートギャラリーに訪れていた。石膏像や絵画などが陳

          【小説】『万華鏡ロジック』 一話