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顎関節症という歯科医療被害 3-13 画像診断について(6)乳突蜂巣の認識の誤り

(49P) 

[図14]
関節腔穿刺および習慣性顎関節脱臼に対する
関節結節切除術等の手術時に注意を要する例

図の説明文では顎関節の後の骨(乳様突起)の空洞が
顎関節の前の骨(関節結節)に広がっていると
さも珍しそうにこの著者は騒いでいるのだが、
進化の都合で軽量化が必須だったヒトの頭骨は
顎関節を患わなくとも元より空洞だらけである。

 [図14]の解説では外科処置に先立って、顎関節周辺骨格の状況をCT像で把握する際の注意点が記されている。

「c、dでは乳突蜂巣(MAC)の
   含気部が下顎窩上方から、
     関節隆起(E)まで及んでいる。」

 先ず、「乳突蜂巣」とは何なのかと言えば、側頭骨の一部である乳様突起という骨の中が蜂の巣のように空洞になっている骨格構造を示す言葉である。乳様突起は首の筋肉が付着する耳の後ろ側に位置する骨であり、それに付着する胸鎖乳突筋は胸骨・鎖骨と乳様突起を結ぶ筋肉である。胸鎖乳突筋は首の左右で対を成しており、首を傾げる際や頭の向きを右へ左へと変える際に重要な働きをする筋肉であるが、首の大きな可動域を補う必要性から胸鎖乳突筋が付着する乳様突起は広い角度でその付着を維持しなければならない。そのため乳様突起は文字通り丸く垂れさがる乳状にその骨の形態をなしているのだ。

[図14]dの観察方向と範囲
丸く垂れ下がる乳様突起内の
空洞になっている骨格構造を乳突蜂巣という
[図14]aの観察方向と範囲

 「関節結節切除について」という以前の解説で私が示したように、ヒトの頭の骨には軽量化が重要な条件であり、乳状突起もその例外ではない。乳様突起は大きなコブ状形態であり、そのまま中身が詰まっていては重たすぎるし、骨格を維持するためには無駄な骨を省かなければならない。それ故に乳様突起はその中身を蜂の巣のように空洞化し、強度を維持しながら軽量化を図っているのだ。だから乳様突起内のその骨格構造を「乳突蜂巣」と誰かが読んで名付けたのだろう。

[図14]dの構図を私が解説したもの
元々下顎窩は噛む力で生じる歪を上にたわんで
逃がす都合上とても薄い造りになっているので
薄い下顎窩には空気が入る余地すら無い。
乳突蜂巣と関節隆起(結節)は
間に薄い下顎窩を挟んで存在しているので
骨内の空洞が下顎窩を乗り越えるはずもなく、
関節結節内側の関節隆起に空洞があったとしても
それを成長した乳突蜂巣とするのは間違いである。
[図14]dの構図を私が解説したもの
正面から観察しても下顎窩は薄い造りになっている

 後に別の項では「乳突蜂巣が成長している」という表現が出てくるのだが、それは傷を治す身体の反応について何も考えない顎関節症専門医の誤った認識である。生活しているうちに骨がスカスカになって脆くなる事を、果たして誰が「成長」だと呼ぶのだろうか。骨粗鬆症が進行して骨が空洞化することを誰も成長というプラスの意味合いが強い言葉なんかで表現はしないだろう。

3Bの頭骨模型からくり抜いた右側側頭骨を
側方から観察したもの
3Bの頭骨模型からくり抜いた右側側頭骨を
正面から観察したもの

  乳様突起も下顎窩も関節結節もそれぞれの部位で異なる役回りがあるのだが、同じ側頭骨という1つの骨として繋がっている以上は何処かにトラブルが生じるとお互いに無関係ではいられない。 歯科原因で側頭骨の顎関節面である下顎窩や関節隆起が損傷して関節面骨軟骨が失われると軟骨下骨が骨同士で直に接して削れていくことになる。前回解説した症例では下顎頭の皮質が破れたことで嚢胞が発生していたが、側頭骨であっても皮質が破れて露髄すれば感染症の危険性が高まる為、身体としては骨の傷口を塞がないわけにはいかない。側頭骨関節面が損傷すると骨が破れる前に薄くなった皮質へ骨添加を促して厚みを回復するように身体は反応することになる。 だが、削れた関節面に骨添加して骨を厚くしたくても、食物の摂取によって外から取り込んだ栄養で骨を補うことができなければ身体は同一の骨の中で別の部位から骨の材料を調達しなければならなくなる。顎関節面の損傷を修復するために、全く損傷していない他の部位が犠牲とされるのである。

3Bの頭骨模型からくり抜いた右側側頭骨を
真下から観察したもの

顎関節を損傷して骨が削れて薄くなり
修復材料が外からの栄養摂取で間に合わなくなると
同じ側頭骨内の別の部位から骨を分解して
骨の傷口を修復する材料を補うことになる

 その結果として側頭骨関節面が削れて損傷が蓄積するほど乳様突起や錐体部の骨が内側で分解されて骨密度が低下していくことになるのだ。ちなみに錐体部には聴覚器官や平衡感覚器官が内包されているので、錐体部がもろくなるほど聴覚障害や平衡感覚障害が生じやすくなり、そこで生じるのが高音声難聴やメニエール病である。

 歯科原因を抱えたまま生活を続け、変形が進行して顎関節骨格が脆くなっている状況ならば、側頭骨という同じ1つの骨で繋がっている乳様突起も脆く見えても当然なのである。しかし、それは日々の骨格の損傷に対して骨の材料が不足した状態で新陳代謝された結果であり、乳突蜂巣はあくまで乳様突起内の骨格構造なのである。
 元々直立二足歩行の都合で軽量化が必須条件だったヒトの頭骨には数多くの空洞が緩衝構造として散りばめられている。あくまでも関節結節の含気部は関節結節のものであり、関節結節に「乳突蜂巣が及んでいる」という顎関節症専門医の認識は誤りも甚だしいのだ。






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