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(毎週ショートショートnote参加作品)ビール傘

ビールを飲む時に鳴る喉の音をカエルの鳴き声に見立て、元来雨の少ない地域であったこの村では雨乞い儀式の一つとして年に1回のビール大飲み大会が行われていた。
ビールを1杯飲む毎に傘を開き、広場に設けられた臨時の壇上に並べていく。
色とりどりの傘はSNS映えすると昨年テレビで特集され、ビール傘と呼ばれるようになった。

いつもは平和な大会も、注目を浴びてから初めて行われる今回は違った。

味方の体調をこっそり敵方に進言するコウモリのような輩がいたことがばれ、大会そっちのけで乱闘が始まった。
鳩尾を殴られた輩は体を折り畳みながら倒れ込み、男たちはそれをジャンプして避ける。
もう一方の男たちは壇上の傘を手にして「刺すぞ!この野郎!」と叫ぶ。
「もう差してるじゃねえか」と観客の野次が笑いを生んだが、主催者は喧嘩を止めるのに必死だった。

やれやれ、この仕事は骨が折れる。

主催者の日笠は両者をなだめつつ、雨が降りそうもない青空を見上げて嘆息した。

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(410字)

たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。いつも、ありがとうございます!

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