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親だからって、全てを理解したつもり? 映画「スープとイデオロギー」ネタバレ感想

こんちは、ねね氏です。
3連休中日。前の日に会った友達に、明日何するの?と聞かれ、「映画2本見るよ」と言ったら興味を持たれました。
でも、映画自体には興味がなかったみたいで、別の映画(バズかな?ミニオンかな?)を、見たあとに合流。
まあ、お互いに強要しないこの感じが心地よいです。

ということで、友達から上手く理解されなかった映画がこちら。

あらすじ

年老いた母が、娘のヨンヒにはじめて打ち明けた壮絶な体験 —   
1948年、当時18歳の母は韓国現代史最大のタブーといわれる「済州4・3事件」の渦中にいた。
朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮へ送った。父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちに借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒは心の中で責めてきた。心の奥底にしまっていた記憶を語った母は、アルツハイマー病を患う。消えゆく記憶を掬いとろうと、ヨンヒは母を済州島に連れていくことを決意する。それは、本当の母を知る旅のはじまりだった。

https://soupandideology.jp 公式サイト

きっかけ

すごく予告で何度も流れてくる映画でした。
最初は別に、見る気もなく、ふーんくらい。
北朝鮮の映画なんでしょって。
でも、まあ勉強がてら見るのもいいかなって思って。
視聴前の期待値は☆☆★★★(星2)

感想(ネタバレ含む)

監督のヨンヒさんは大阪出身在日2世。
兄が3人いるんだけど、みんな大阪から旅立って、平壌で生活しています。
亡くなったアボジ(父)は北朝鮮の活動家。そんなアボジを支えたオムニ。
兄は平壌で家族を作っており、その親戚もろとも、オムニが借金してまで善意の仕送りをして、生活を支えている。
その中でも、賢かった長兄は、人間プレゼント(!!)に選ばれ、北朝鮮に行ったけれど、うつ病になり、そのまま亡くなった。
二人の出身はチェジュ島。チェジュ島って、韓国なんだよね。
なぜ韓国の土地にルーツがある二人が、北朝鮮を信じて子供たちを北朝鮮に送ったのか。

前半は、監督であるヨンヒさんが結婚する話がメイン。
両親は朝鮮人と結婚することを望んでいましたが、ヨンヒさんは日本人の婚約者を連れてきました。それも、12歳年下。
でも、真夏なのに背広にネクタイで長袖のワイシャツ。
すごく緊張してどもっちゃってる感じとか、すごく好感。優しそうな人。
その後、暑さに耐えかねて、Tシャツに短パンになっちゃうんだけど。
お婿さんであるカオルさんは朝鮮人じゃないけど、オムニはすごく嬉しそう。
朝鮮の話をしたり、平壌に家族がいて幸せにしているんだ、っていう話をひたすら自慢げに語るオムニを否定せず、ニコニコ話を聞くことができるカオルさんは本当に素敵な人。
しかも、オムニのために、朝鮮の民族婚礼衣装を着て、写真館で家族写真を撮る。
日本人だけど、似合ってる!朝鮮人みたい!とオムニ大喜び。
なかなかできることじゃないよね。北朝鮮って聞いたら、自分だったら否定的な言葉が出ちゃいそう。
いい人だなあ。

オムニとヨンヒさんは、東京から挨拶に来るカオルさんを、朝鮮式の鶏がらスープを炊いて待っていました。
鶏1羽の中に、ニンニクとナツメ、高麗人参をこれでもかと詰め込んで、糸で縫う。
で、4時間炊く。
スープはもちろんだけど、鶏や中身の具材も別でそれぞれいただく。
時間はかかるけどすごくおいしいらしいご馳走。
オムニだけじゃなくて、カオルさんも覚えて、何度もこのスープが出てくる。
これが家庭の味なんだよね。

だんだん、オムニはアルツハイマーが進行。
記憶が混濁して、妄想の世界を生きるようになる。
亡くなったアボジや、ヨンヒさんのお兄さんと一緒に生きている妄想になったり。
ヨンヒさんのこともだんだんわからなくなる。
目の前にいるのに、オムニが自分を自分として認識してくれない。
こんなに悲しいことはないよね。
私はここにいるのに。
医師から、妄想には全部肯定するように言われ、その通りに合わせて生活する。
生活の拠点を、東京から大阪に移動して、お婿さんは通う日々。
大変だなあ。

そんな中、オムニは今までひた隠しにしてきた残虐な事件の話をポツポツ話し出す。
それは、ヨンヒさんも聞いたことがなかった、「チェジュ島4・3事件」の話。
まさかの、オムニは事件に被災した一人だった。

オムニは元々在日朝鮮人。ルーツは、チェジュ島。
戦時中に大阪が空襲で焼け野原になり、チェジュ島の親戚を頼って疎開。
しかし、朝鮮が二分され、この事件が起こる。
オムニの語った話はとても壮絶。
妊婦も子供も関係なく銃殺されたこと。
動いているものは片っ端から銃殺されたこと。
銃剣で後頭部を殴られ、目玉が飛び出たこと。
親にも紹介した婚約者が、出かけて行って帰ってこなかったこと。
そして、オムニは弟妹を連れて、祖母を頼りに大阪へ亡命。
30kmの道のりを、兄弟で散歩しているふりをしながら、港まで必死で逃げた。
そう、オムニは、この事件をきっかけに、韓国政府を信じられなくなり、北朝鮮を支持するようになったのだ。
今の日本に生きる我々には考えられないけれど、当時を生きていたオムニには、オムニの事情があって、北朝鮮を信じて生きてきたのだ。

オムニと一緒に、韓国へのパスポートを手に入れ、チェジュ島の慰霊式典へ出席する。
オムニは、娘のことも、かつて事件について取材にきた研究所の職員さんも、かつての婚約者のことも忘れていた。
北朝鮮を支持するオムニに対して、ずっと反抗的だったヨンヒさん。
なぜ、北朝鮮を支持するのか。
なぜ、幸せなはずだと信じている北朝鮮の家族に、借金してまで仕送りを続けるのか。
なぜ、兄たちを平壌に送ったのか。
なぜ、兄が亡くなってもなお、北を信じ続けたのか。
全てを理解した今、オムニとヨンヒさんは和解することができた。

この映画は、歴史や朝鮮のことに興味がある人だけではなく、家族を大切にすること、アルツハイマーとの闘病など、様々な側面を見せてくれる。
そもそも、ねね氏はチェジュ島4・3事件なんて知らなかったし。
この事件は、韓国でも長年のタブーだったらしい。
韓国の闇に触れた気がした。

評価

視聴後の評価は☆☆☆☆☆☆☆★★★(星7つ)
想像よりもずっと面白い作品だった。
90分なのですごく見やすい。
何とも言えない気持ちが残る、温かい映画でした。

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