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全然もうかってないけどほそぼそと受注している翻訳者の話 その2

その1の続きです。

この「ほそぼそ」をめぐる一連の記事では、私の現状の「ほそぼそ」具合と、ほそぼそながら翻訳業で仕事をいただけるようになるまでにどんなことがあったのかを書いていきたいと思っています。収入はまだ安定せず、成功しているわけではありませんが、こういう人間が広い業界の中に辛うじて存在していることを書くことで、「ちょっとした英語力があれば家事・育児の隙間時間に翻訳で稼げる!」という翻訳(を教えるという風体の)講座には申し込まずにどういうふうに翻訳業界に入っていくのか、稼げる翻訳力をつけるまでの間にどういう生活があるのかを知っていただくひとつの機会になったらいいな、と僭越なことを考えております。

・2013年
前回の記事を書きながら過去の記事を見返していて、2013年の1年に自分にとってのターニングポイントになる出来事が集中的に起きていたことに気がつきました。

1月 フェロー・アカデミーの出版マスターコース受講開始。
3月 ナショジオ翻訳教室修了。
7月 マスターコースの直接講義に参加。
8月 アメリアの求人から応募した翻訳会社から初受注。
9月 翻訳者のオフ会に初めて参加。
10月 アメリア出版持込ステーションに企画書を提出。 JAT新人翻訳コンクールに応募。

マスターコースの直接講義や翻訳者のオフ会で翻訳をなりわいとしているプロの方々と初めて出会えたことで、自分にとっての翻訳が現実世界とつながり、日々の糧を得る手段に変わっていった年でした。

心の風邪がだいぶ落ち着き、いろいろと行動を起こすことができる状態になっていたのだな、と見返してみて今あらためて思います。ないない尽くしの私ですが、風邪が落ち着くまで通信で学習を続け、動けるようになったタイミングで外の世界に向けて手を伸ばしたことが、今の状況を作ったポイントだったのかもしれません。

よいタイミングで動けたのは、前回の記事の最後でも触れたように、Twitterで情報収集をしていたためでもありました。最初は、本の向こう側にいて顔の見えない翻訳業の方々が日々どんなことを考えて仕事をしているのかをほんの少しのぞけたらいいな、という気持ちで始めました。いろいろな方をフォローしていくうちに翻訳業界の情報が少しずつ入ってきて、近くに実在(!)していた翻訳者の方々と交流できるようになり、JATの翻訳コンクールのことを知り、翻訳にまつわる勉強会などの情報がだんだんと見えてきました。

・JAT翻訳コンクール
このコンクールで入賞したことが、その後実務翻訳に進む直接的なきっかけとなりました。IJETでの表彰式後、翻訳会社の方々がトライアルを受けるよう声をかけてくださったからです。そのときまで、自分自身ではトライアルにすぐチャレンジしようとはそこまで思っていなかったように記憶しています。入賞はしたものの、以前から登録していた翻訳会社とのお取引は途絶えていましたし、トライアルへの応募に向けてまだまだ準備が必要だと思っていました。でも、いただいたチャンスを自らつぶすのはあまりにもったいなく、思い切って受けさせていただいた結果、新たな翻訳会社に登録していただくことができました。そのときご縁をいただいた会社とは、育児で一時仕事を中断した後もずっとお取引をさせていただいています。

・翻訳業の基盤を築く
翻訳会社への登録と前後して、翻訳業の実務にかかわる知識・情報などを補うべく、業界の大先輩方が提供してくださるさまざまな機会を活用するようになりました。
JATアーカイブスの、深井裕美子さんの動画「調べ物100分勝負」。
JTFでのテリーさんこと齊藤貴昭さんのセミナー「あなたの翻訳は大丈夫? ~翻訳者による品質保証を考える~」のDVD。
翻訳フォーラムのシンポジウム。
サン・フレアアカデミーでの深井裕美子さんの「英文読解力強化セミナー ~誤読をなくし、誤訳を防ぐ~」。
などなどを受講・視聴。実務での翻訳に耐える辞書環境、翻訳業への心構え、ミス撲滅の手順、具体的な翻訳の思考ステップなどを諸先輩方からうかがうことは、社内翻訳などの実務経験がない私にとっては、そのまま翻訳のOJTのようなものでした。地方在住で首都圏での催しにはなかなか参加しにくいので、DVDやアーカイブスでも視聴できたのがありがたかったです。最近はこのほかにもZoomでのウェビナーがあったり、翻訳団体のイベントがオンラインで開催されたり、YouTubeで定期的に情報を発信してくださる先輩方も大勢いらっしゃり、ご自分の経験と知識を惜しみなく後進に与えてくださる先輩方が本当に多いなと実感しています。オンラインでの情報収集ができなければ、こんなに早く翻訳業に携われるようにはならなかったと思います。

・『職業としての翻訳』
コンクールのところで「すぐにトライアルにチャレンジしようとは思っていなかった」と書きましたが、自分の翻訳の勉強と実際の実務との間に広い溝を感じていたのは、山岡洋一さんの『翻訳とは何か―職業としての翻訳』や鈴木主税さんの『職業としての翻訳』を読んで、翻訳をなりわいとすることの厳しさを感じ、自分がその世界の片隅に入れるともほとんど思っていなかったからだった、ということを思い出しました。この本の厳しさと真実については、翻訳者のオフ会でも話題になったことがありました。

購入履歴を見ると、どちらの本も2009年の同じ日に購入していました。実際に翻訳者の方々と顔を合わせる4年ほど前。翻訳を勉強しながらどこに向かっていこうかと、読んでからずっと考えていたような気がします。お金にならない可能性が高いこれを、どこまで続けていこうか、いけるのか、いくべきなのか。一時期、自分の中でX年後までと期限を区切って、そうこうしている間に2013年がきたんだったような気もします。

過去の記事を読み返していて、翻訳フォーラムでうかがったお話や2冊の『職業としての翻訳』の中身をだいぶ忘れてしまっているなと思いました。これを機にまた復習します。

[旧ブログ2020/12/16の記事より転載]

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