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アイドル。日本が生み出した日本独特なエンタメ

 アイドル活動と並行して作詞家としても活動されているPassCodeの有馬えみりさんは「アイドルって、ミュージシャンやクリエイターの活躍の場にもなってるから。あたしもクリエイターとして本当にありがたいし、それで面白い作品も生まれてますし」と仰っていますが、日本の音楽ファンが知っておいた方が良いのは、日本のミュージシャンの収入は大量に存在するアイドルに支えられている面もあります【楽曲・歌詞提供やサウンドプロデュースやバックバンドなど】。

文化産業の発展においてはピラミッドの裾野の厚みが重要で、日本の音楽産業の場合はアイドルがその裾野を支えている面も大きいので、そこが崩壊すると全体が衰退すると思います。日本は人気度だけで音楽を評価する人々が非常に多いがゆえに、米国などに比べると、ピラミッドの裾野に位置する無名アーティストを一般リスナーがサポートする文化が非常に薄いですからね。

 米国の音楽が世界的に強いのと日本の漫画・アニメが世界的に強い原因は構造的に似通っています。

◆米国は音楽好きが非常に多いがゆえに、音楽の国内需要が非常に大きい。防音設備の無い普通のカフェで音楽ライブをやっている場合もあり、路上演奏者も非常に多く、音楽が人々の生活に密着していて、アマチュアも含めてミュージシャン人口が世界の中では非常に多く、音楽アーティスト・ピラミッドの裾野が分厚い。

◆日本は漫画好きが非常に多いがゆえに、漫画の国内需要が非常に大きい。地上波テレビで無料でアニメを放映していて、漫画雑誌も非常に多く、コミックマーケットが定期的に開催され、漫画・アニメが人々の生活に密着していて、アマチュアも含めて漫画クリエーター人口が世界の中では非常に多く、漫画アーティスト・ピラミッドの裾野が分厚い。

つまり、世界における米国の音楽や日本の漫画・アニメの商業的競争力が高いのは、質が高いものを作っているからというよりは、前述のような構造があるからなんですよね。前述のような構造がある事によって、アーティスト・ピラミッドの裾野が分厚ければ、その頂点に立つアーティストの商業的なクオリティは必然的に高くなりますからね。

アイドル叩きに関して

 よく、ジャニーズやAKBなど日本のアイドルが日本の音楽をダメにしたといった事がネットで言われていますが、意味不明です。歌を歌う事によって収入を得ている人々がアイドルしかいないのであればともかく、歌を歌う専門の人々として、例えばLiSA、Adoなど「歌手(シンガー)」や、バンドや音楽ユニットのボーカルがいるのに、何でアイドルが日本の音楽をダメにしたという事になるのか?無茶苦茶です。

 人気アイドル叩きは、実力もないのに売れやがってといった感じのルサンチマンもあるのでしょうね。しかし、誰でも人気アイドルになれるほど、アイドルは甘くはないでしょう。実際、アイドルの殆どは売れていない、或はそれ程売れていないわけですし。

例えば、平凡な企画内容のYouTubeチャンネルの登録者数が10万人以上だったり、再生回数が数10万回以上だったりする場合がありますが、YouTuberになれば誰でもそれくらいの登録者数や再生回数になるのかといえばそんな甘い世界ではなく、気の利いた事や面白い事を言ったりするのも立派な才能や技能なんですよね。

人気アイドルは、そういった気の利いた事や面白い事を言ったりする才能や技能も秀でている人々なのでしょう。

アイドルとは

 K-POPアイドルと言われている人々は純粋な意味でのアイドルではなく歌手です。ただ、日本の「アイドル」という言葉を韓国が模倣した事で、アイドルの定義がぐちゃぐちゃになり、アイドルを生み出した国の国民である日本人ですら、アイドルの意味が分かっていない人々が非常に多くなりましたが、本来、日本のアイドルは歌を歌う専門の人ではなく、マルチタレント、現代版の芸者といったところでしょう。

日本の「アイドル」は和製英語で、英語の「idol」と意味が重複する部分もありますが、基本的に別の概念です。神仏習合が象徴的な例ですが、異質な文化要素をクロスオーバーさせるのが日本文化の大きな特徴の一つで、アイドルもそういった日本古来からの文化がベースになっていると思います。

プリミティブな音楽文化

 例えば盆踊り音楽の良さは、音楽に合わせて自らが踊ったり、露店など盆踊りの場の雰囲気を総合したところにあるのであって、純粋に盆踊り音楽だけの良さにあるわけではないでしょう。他の音楽も同じ事で、音楽は純粋に音楽だけで評価されなければならないというのは、考え方が狭いと思います。

録音技術の発達や西洋文明の影響で、音楽は純粋音楽として評価されるようになりましたが、本来、音楽は一般庶民にとっては純粋音楽である前にエンターテインメント(人々を楽しませる娯楽)だと思います。

 日本のアイドル音楽は一般的にキャッチーでメロディーを覚え易く、素人でも歌い易い曲が多く、日本は、日本が発明した「Karaoke」が良い例ですが、元来、参加型の音楽文化なんですよね。しかし近年、アイドル音楽に対するネガティブキャンペーンで、アイドル音楽の世間的価値が大幅に下落し、結果、音楽が一般庶民にとって遠いものとなり、

また、一昔前まではアイドル音楽の方へ行っていたような層が、日本のアイドルに対するネガティブキャンペーンで、アイドルの方へ行かなくなった結果、音楽無関心層が激増した面もあると思います。

 アイドルが凋落すれば、アイドルの方へ行っていたお金がアイドル以外の日本のアーティスト、或いはK-POPアーティストの方へ行き、それらのアーティストの売り上げが増えるのではないか、といった思惑があってアイドル叩きをしている人々も多いようですが、全体としてはあまりそうはならないと思います。それらのアーティストはアイドルではないので、アイドルの代替にはならないですからね。

むしろ、日本においてアイドルはマルチタレントで、人々が音楽に対する関心・興味を持つ取っ掛かり、きっかけとしても機能していたので、アイドルが凋落すれば、日本の音楽市場が冷え込むだけなんですよね。実際、そうなっていますし。

音楽文化が発展するには、人々が音楽に対して関心を持つ何らかのトリガー、社会的装置が必要ですが、米国はそれが、そこいら中にいるストリートミュージシャンや、普通のカフェでも音楽が生演奏されていたりする事ですが、日本の場合は、その大きなトリガーの一つとなっていたのはアイドルなんですよね。

 純粋な意味でのアイドルは、日本が生み出した日本独自のエンターテインメントであり【日本のアイドルは芸者(の多芸性)がルーツだと思います】、日本のアイドルが海外から高く評価されないからといって、その文化を放棄するのが賢いとは思えないですね。

日本人は海外(特に欧米)からの評価を過剰に気にし過ぎると思います。結果、日本から、日本らしさ・日本独自のものがどんどん消えて行き、日本は無個性化していき面白みのない国になっていくんじゃないですかね。

「このまま行ったら日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう」by三島由紀夫

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