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水風船
何もないと思ってたあの頃、ここじゃない何処かだったら何処でもいいから行きたいと本気で思っていた。
この街はそこらじゅうが私自身のおぞましさや浅はかさ、恥ずかしさと傲慢さで膨らんだ黒い水風船で溢れかえっていた。
些細なことの拍子にそれは弾け飛び、連鎖し、中から飛び出した黒い水は濁流となって私の手足に絡み付いて磔にした。
磔にした私の怯え泣き叫ぶのを見て黒い水は私の姿かたちをそっくり真似したものを大量に作り出した。
私そっくりなそれは歓声とも悲鳴とも判別のつかない声を三日三晩あげ続けた。それ以外は何もしなかった。
磔となって私に囲まれながら私はふと気づいた。
黒い私はみな私の言葉を待っているのだということに。
私がひとことやつらに殺せと言えば済むことなのだ。
私を殺すことを命ずればこの地獄は終わる。
奴らは手に槍やら剣やらを持って私を串刺しにするのをいまかいまかと待ち構えている。
もういいやと思った。
口を開き声を発した。
「生きたい」
生きたい、生きたい、
生きたい生きたい生きたい。
生きていたい。
生きたい!!!
叫びながら私は涙を流していた。
そして知った、ほんとうの声を。
私が閉ざしてしまっていたほんとうのわたしの声を。
太陽があがり、黒い水たちはひと雫も残さず蒸発して消えた。
太陽と空と地面とわたしだけがそこにいた。
わたしは自由だった。
あれから一年半。
この街はそこらじゅうが私自身のおぞましさや浅はかさ、恥ずかしさと傲慢さで膨らんだ黒い水風船で溢れかえっていた。
些細なことで破け連鎖し黒い濁流が私を襲う事はあったが、そのことごとくを自らの意思で跳ね除けてきた。
だが3日後にはあの水風船はまたやってくるだろう。
あれはそういうものだ。
私はあの日にこの街で生まれ直した。
この街で立ち上がり、
この街で戦うことを決めた。
この街で出会い、別れ、笑い、悲しんだ。
この街は、私にとってそういう場所になった。
いっちょ地元への思いみたいなもんを書いてみようと思って書きました。
GADOROって日本語HIPHOPやってるアーティストがいまして。その方は地元宮崎の高鍋ってとこを拠点にして活動してるんですが、JIMOTO (feat.SHINGO☆西成)っていう文字通り地元への想いを歌った曲に感銘を受けまして。地元を愛してるってことを彼の言葉で歌っているんですがその中で特に気に入っているフレーズがあるのでここに載せます。
ここにいなけりゃ
ここにいるから
ここに捧げた
ここが全てだ
私今29なんですが、この歳になってようやく地元のこと好きになってきた気がしていて。最近になってやっと思えるようになったよなって時にこの曲と出会えて、その時の感覚からこの詩は生まれました。
私がへこたれたのも確かにこの街だけど、そこから立ち上がったのだって同じこの街で、この街で生きてる私はこの街にしかないものだから、それはかけがえない事だなって。
色々受け止めるとか、受け入れるってことを遠ざけてたヘタレだったんですが、ようやくそういうことが少し分かってきたのかなーって思います。大人になる事は悪いことばっかりじゃないなと。
思ったより全然長くなってしまったんですがそれでも読んでくれたあなたへ、ありがとうございました。
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