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一度も傷ついたことがないかのように

踊りなさい、誰も見ていないかのように
愛しなさい、一度も傷ついたことなどないかのように
歌いなさい、誰も聴いていないかのように
働きなさい、お金など必要ないかのように
生きなさい、今日が最後の日かのように

          アルフレッド・D・スーザ


大事なことを忘れてしまうのは
いつもの癖だ。

この1ヶ月急変していった母のことしか
もう頭の中になかった。

よく頑張ったとか
病気には勝てなかったとか
皆が良かれと言ってくれる言葉。

そうか…とまるで
何も知らない人のように
わたしはぼんやりとしていた。

どうしてこんなに悲しいんだろうと
ずっと考えていた。
お母さんが死んでしまったから。
もう会えないから。

勿論そうだ。
だけど、わたしは他にも
大切なことを忘れてしまっていた。

あの壮絶な1ヶ月間で
わたしがなくした記憶。

それは、お母さんがどんなに
楽しそうに生きていたか、だ。

8月にはまだ一緒に出かけたり
ごはんを食べたり
おしゃべりをしたり
普通にしていた。

またプロレスを観に行くと
毎年お正月に観に行きたいと
笑って話している
動画が偶然見つかったのだ。
「ダー!っです」と
アントニオ猪木さんにかけて
母は強い意志を滲ませていた。

わたしが殺してしまったんではないか。
それが、わたしがずっと抱えていた本音だった。

癌の治療方針に意見するとは
それほどの地獄のような
重みのことだった。

もしもわたしが
お母さんを殺してしまったんだとしても
お母さんは気にしない。

確かにそうだ。
彼女はそういう人だった。

わたしが忘れていた、大切なこと。

お母さんの明るさ、強さ。
細かいことを気にしないこと。
おばあさんになりたくなかったこと。
ずっと綺麗でいたかったこと。
わたしを好きでいてくれたこと。

わたしが自分を責めることを
何よりも望まないこと。

お母さん。
お母さんはほんとうに幸せだった?
わたしは、お母さんを幸せに出来たかな。

答えはわかっている。
お母さんを知っているのに。
それを、信じられないわたしが
ただまだ弱いだけだ。

お母さんの強さに追いつくから。
もう少し、待っていてね。

一度も傷ついたことなどないかのように
愛せる自分に戻りたい。

だから今は、深く息をして。

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