喜び、勇気、イマジネーション
母は、あと1週間しか
生きられないかもしれないそうだ。
栄養点滴をするかしないか
母に託された娘は、緊張して病院に行ったが
もう安らかに眠る段階にあるため
お医者さんにも、穏やかに分かってもらえた。
すべてが全く
母の願った通りになってゆく。
わたしを困らせたくない
負担をかけたくない
苦しみたくない
弱った姿で永らえたくない。
そのすべてが望んだ通りに
パズルのピースがはまるように。
母に最期に着せる、洋服のことを
病院からの帰り道考えていた。
あれでもない、これでもない。
母はどんな洋服を着たいだろうか。
どうしてだろう。
その時ほんのかすかに
でも確かに
わたしは楽しかったのだ。
いっぱい洋服を一緒に買ったね。
兼用でふたりで着た服も
沢山あったね。
お母さん、お疲れさま。
もう全部上手くいったよ。
何も、心配いらないよ。
「わたしたちの/つないだ手のなかに闇がある/その闇のなかで/あざやかな緑の『野』が育っている/わたしたちはその場所を知っている/あんなに広いのに/椅子をひとつ置くだけで/きもちがいっぱいあふれてしまうところ 」
──小池昌代「記念撮影」
あとは、溢れるばかり。
いのちが、溢れて溢れて
愛や友情や、感謝や涙や、優しさや記憶を
とめどなく映し出して
野の中にある、ひとつの椅子
わたしたちはその場所を知っている。
いつかわたしが死んだら
お母さんを迎えに行くからね。
また会えるから
さようならじゃない。
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