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あたらしい人生

例えばそれは
自分の子供ではない子供を育てるということ。
例えばそれは
浮ついた恋を避けてきた人生であるということ。

例えばそれは
真冬の台所仕事で荒れた手のひら。
例えばそれは
眠るためだけに用意された狭い小屋。

少しずつ見えてくる
その人の匂いが。
それはきっと獣のような
生き物らしい匂い。

職人気質で懐が深く
自分を飾らない。
てらいがなく、駆け引きがなく
人を信じすぎる。

そんな女性はきっと
この世界を生きるのは
行きづらかっただろう。

器用に見えて
皆に愛されているように見えて
本当は胸の中が
からっぽに満たされていた。

完全という皮をかぶった
彼女の女性である証は
恋や性ではなく
母であること、だったのだろう。

彼女が唯一望んだもの
欲しがり、ついに得られなかったもの
望んだからこそ、虚しかったもの。

人は高望みをする生き物だ。
だから生きられるし
だから滅びる。

わたしは彼女が完璧のままで
破綻のないままでいてほしかったとは
全く思わない。

そんな人間に
人の子供を二人も育てあげることなど
出来るはずはないのだ。

完璧な母親も、完璧な女性も
どこにもいない。

破綻してこそ、女性だ。
破綻こそ愛だ。

溢れ出る涙とみじめさは
誰かのために生きた証だと思う。

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