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読書感想「東京都同情塔」―犯罪者に同情することはできるのか?

写真は作品内にもよく出てきた国立競技場。
生成AIを駆使して作られたと話題の芥川賞受賞作「東京都同情塔」を読みました。

この作品は中編にも関わらず独特の世界観にいくつものテーマがぎゅっと盛り込まれており、なおかつどれかひとつが深堀りされるわけではなく絡み合いながら美しく構成がなされています。
その様子がまるでこの作品のシンボル「東京都同情塔」を表しているように感じるんですよね。
なんか変な気もしますが、自分なりに図にしてみました。↓↓↓

私が思う「東京都同情塔」


あらすじとしては、主人公・建築家の牧名は都内に建てられた「東京都同情塔」という名の美しい犯罪者収容施設をデザインした。その世界では犯罪者はかわいそうな境遇に産まれた同情すべき人たち「ホモ・ミゼラビリス」として丁重に扱われることになり……という感じです。

他の色々なテーマも気になるのですが「犯罪者は同情すべき人間なのか?」というのは特に気になるテーマでした。まあ、家庭環境はどう考えても人生に多大な影響を与えると思います。

死刑制度に反対か? というのはよく討論や小論文のテーマになりますが、私はあれが苦手なんです。
どうも私は感情的に過ぎる人間なので、最初は被害者や遺族の気持ちを考え、次に犯罪者はこんなに悲惨な環境で育ち~みたいな話が出てくるとわけが分からなくなってしまうみたいなんです。
犯罪の抑制力になるかどうか? などデータを基に考えていくべきなのだと思うのですが、人間の行動を感情を交えずに考えるというのは難しいことですよね……

コロナ禍では特に「この社会は確固たる理論や正確なデータではなくて人の感情の集合体、なんとなくの空気感で動いているものなんだな……」と感じたりしましたね。

だから最初に世界観を把握した時に「これはウエットな展開がくるぞ!」と思いました。
例えば、犯罪被害者の遺族が出てきて世間に涙ながらに犯罪の再度厳罰化を訴える、とか。同情塔の住人を羨んだ人々がデモを起こして塔へなだれ込むとか。
でもこの作品はそういう展開にはならないのです。そこが面白いところで、完成度が高いところなのかなと思いました。ぜひご自身で結末を確かめてみていただきたいです。


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