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日記6/5 香水日記は風に流す


棚の奥にしまい込んでいた香水を
久しぶりの手にかけた。
アールグレイを基調に花の匂い。
薫風喉元を過ぎ去った。

日記の筆ばかり気にすると
つい疎かにするのが他の五感である。

私の場合、
日々の自分を記録するのに文字が手っ取り早いと思っているけれど
インスタの画像日記
Youtubeの動画日記

そこには当時の声が残り、写真が残り、文章では表せない日々の記録が残る。

思えば偉人や文豪の言葉に励まされつつ
写真が残ってないか気にするし
その人が動いてる映像を見ると感動する。

プライバシーな情報を削ぎ落とせるのが匿名文章だけれど
削ぎ落としたものの中に、見返せばつい懐かしさを感じ、残しておいてよかったとなるものは多い。
失って初めて大切なもの気付いた…というフレーズは、日記の道にだって通じてしまう。

最近たまにみるニュースで、食べたものの味や匂いも記録し再現できる科学技術が出たりするけれど、きっと一番影響を受けるジャンルが日記なのだろうなと思う。

とはいえ
握り慣れた日記の筆を今更手放すのは惜しい。
こんな屁理屈を動画で長々と見せるのは申し訳ない。
さらりと読み飛ばせるくらいの情報密度が、私の言葉には丁度いい。

匂いだって文章で表現できる。
明治初期の日記に、春野菜を運ぶ荷馬車の音みたいな文句があった。
平成初期の日記に、上京した新社会人がまだ燃費の悪い車の吐く排気ガスと喫煙者の副流煙に苦しむ表現があった。

現代社会の我々は、それを体験することはない。
野菜はトラックの中にしまいこまれて見えないし、
高燃費なエコカーやEV、禁煙された道中でガスの匂いはせず、深呼吸すらできる。
昭和レトロが流行っても、わざわざ煙を吸いにいく必要もない。

けれど、分かる。

文章に込められた文脈、感性、視点。
共感という人間の能力が、鼻腔の奥で匂いを生成する。

だから、つくづく。
私の日記も、無味無臭に近いかもしれないが
誰かのもとで、一抹の香りを届けられたらいいなと思って、日々を綴っているのだ。
この香水が、数年前に買ったあの頃を思い出させたように。

などと言いつつ
買った香水は匂いが合わなかったので
他人に譲ったのだが。


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