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奇妙な話:知らない写真

 最近、スマートフォンの調子が悪い。執筆活動の一部をスマホ端末で行っているため、操作が利かなくなったら大問題である。致命的なエラーが出てきてから、バックアップを取っても遅すぎる。「保存できるデータは前もってパソコンに移行させてしまおう」と私は考えた。聞くところによると、昨今のアプリケーションには【One Drive】という便利なものがあるらしい。さっそく、スマホとパソコンのデータを共有するために行動を起こすことにした。

 インターネットを活用して手引きを読み込む。意外にもすんなりとデバイスを同期させることができそうだ。これで、いつスマホ端末が壊れるかヒヤヒヤしながらやり過ごす必要もなくなるだろう。「世の中は便利になったものだなぁ」と考えながら、アプリをダウンロードしてみた。「とりあえず、スマートフォンで撮影した写真をパソコンに移行させよう」とアプリを開いてみたのだが――。

「四年前に撮影した写真です。懐かしいですか?」という旨のメッセージと共に一葉の写真がピックアップされていた。

 懐かしいかどうか訊ねられても、困惑するばかりである。そもそも、こんな写真を撮った覚えがない。それは酷く色褪せた感じのする写真であった。どこかの学校の校門を撮影したもので、一人の学生が下校している姿が映っていた。何の変哲もない日常風景を撮影した写真である。だが、何だか不吉な感じがするのも確かだった。どうして、こんな写真データが自分のスマートフォンの中に?

 どこかで偶然に撮影してしまった写真には思えない。それは色褪せてはいたが、キチンとピントが合っている写真だったし、全体の構図から類推するにどうも盗撮らしい感じがする。校門から出て行く学生から隠れるようにしてシャッターを切った――そんな感じがするのである。無論、自分にはそのような趣味はない。何だか、厭な感じがする写真である。

 結局、得体の知れない不吉な感じは拭い去ることができず、ダウンロードしたアプリもアンインストールしてしまった。だが、今も私の写真フォルダの奥底には「撮影した覚えのない写真」が静かに眠っている。どこのデータ領域に保存されているのかも確かめていない。というか、確かめる気にならない。臭い物に蓋をするように、私はアプリをアンインストールすることで、その写真を見なかったことにしたのである。

 幸いなことに、あれから身の周りで変わった出来事は起きていない。一刻も早く機種変更するべきなのかもしれないが、何となく、あの写真はどこまでも付き纏ってくるような気がしてしまう。ただ、そっとしておく方が良いのだろうと思う。技術が発展すると共に不思議も形を変える。数キロバイトの電子情報の中に籠められた意図は何なのか――、私は深く追及したいとは考えない。

 こういった奇妙な話は探そうと思えば、幾らでも見つかるものである。あなたのスマートフォンにも、謎の写真の一枚くらいは残されているかもしれない。大体において、それらは呆気ない顛末を迎える話なのだが、中には本物も紛れ込んでいるかもしれない。ちなみに、私はそれを確かめる勇気を持っていない。触らぬ神に祟りなし――。もし、そういう写真を偶然にも見つけてしまった場合、目を背けて封印することをお勧めする。

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