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読書感想文 16 中井英夫著 「真珠母の匣」


五十代になった三姉妹に有名な占い師が「お三方の前にペルセウスのような魅惑的な男性が現れる」という予言をする。すると三姉妹の前に魅力的な男性がそれぞれ現れる。ロマンチックな始まりのわりに展開が現実的で、洋食屋さんでお蕎麦が出てきた気分。お蕎麦が悪いわけじゃないのよ。ただ、ラブロマンス小説なのかなと思って読み進めていたら、うーん、「戦中派の青春精算小説」と呼ぶべきものだった。まあ、そんなジャンルがあるのどうか謎ですが。作者の中井英夫が敗戦時に二十代だったこともあって戦時中の若者の心の動きを書くの上手い。あと昔の縁談の進め方とか世代が違うと衒いが出てしまい書けないと思う。
ただ、女性の読者は最後のオチにちょっと納得がいかないと思う。


最後にこの物語のテーマであろう主人公の台詞を引用して終わる。

「わたしたち大正の女ってのはあれだよね、戦争中皆なと同じ病気に罹ってむしろそれでやれやれと安心してたらいつの間にか皆は癒っちまってるのに気づかなかったところがあるんじゃないかしら。いいえ、皆さんは本当に病気になったのかどうか疑わしいものさ。いっときそんなふりをしていただけかもしれないのに、わたしたちだけはまだ病気のままなんだから」

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