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愛が愛とは限らない

君がそれを言うのか

私を性格の悪い人間にしないでくれ

どうなるかわからないよ
なんて

その相手が誰であって欲しかったのか

君は知らずに簡単に言う


私が君の虜になった日を

君は知っているだろうか

知り合いに「絶対このバンド好きだよ」
と下北沢のライブハウスに連れられ

その時受けた衝撃を今でも忘れない

上裸に革ジャン、
スキニーとコンバース

まっすぐで少ししゃがれた声は
ロックンロール以外の何物でもなかった

知り合いも含め
私の周りは君に向かって拳を掲げ
君はそれに応えるように
高く飛んだ

「Aくんだよ」
知り合いは君を私に紹介して
私は興奮をそのまま君に伝えた

「それ、やばいね」

私のハイロウズのTシャツをさして
君は優しく笑った

それから君とは友達になって
ライブハウス以外で会うことも何度かあった

私は君に恋していたかもしれない

でも私はそれがバンドマンの君に対してなのか
それとも君という人間に対してなのか
いまいち分からなかった

少なくとも君は
気づけば目で追いかける存在だった

好きな音楽もファッションも同じで
一緒にいると心地よかった
君とならどうなってもいいと思った

そんな時だった
君に彼女ができたのは

彼女はお互いの友達だったけど
私は彼女が苦手だった

だって彼女は君のライブで
君に事前に曲をリクエストする人だよ

君がハイロウズのCDを貸しても
1週間もそのまま置いておく人だよ

君のことを私に
「付き合っちゃいなよ」と言ってくる人だよ

4月の夜だった

君ともう1人のバンドメンバー、
それに彼女と私の4人で
家で飲み会をした

君と彼女がお互いの膝に手を置いて
バカ話をしていても
見ている事しかできなかった

何も考えないように
何も感じないように

ふと君が、横で寝ていたもう1人を指して
私にこう言った

「彼とどうなのよ、最近仲良いじゃん」

「いや友達なだけだよ、ないない」

「わかんないよ、どうなるかなんて」

適当に返事をしながら
私は君のことを考えた

どうなるかなんてわからない

そうだ、その相手は

君であってほしかったんだ

「ほら、俺たちだって絶対ないと思ってたし」

その言葉にうなずく彼女は
思いもしないだろう

目の前にいる女が
その可能性が自分にもあったらと

そんなことを考えているなんて

私は君と、どうにかなりたかったんだ

付き合いたいとかのその前に

君と2人でお酒を飲みたかったし

君と同じ道を帰りたかったし

君をライブに誘いたかったし

その時に君から出てくる言葉を聞きたかった

期待するような顔で
こちらを見ないでくれ

何にも気づかず良かれと思って
私と友達をくっつかせようとしているが
果たしてそれは愛なのだろうか

君と彼女の前で
ドロドロと流れてくる感情を隠し
祝福しているように見せているのは
愛だろうか

君の隣が私であったら
あの話もその話も
もっと深く話せるのにと
もったいないと思ってしまうのは
愛だろうか

君のことを何も思っていないと
自分に嘘をつき続けるのは
愛だろうか

愛が愛とは限らない

君にとっての愛が
私にとっての愛であるとは限らない

それは逆も然り

私はこのどこにも行き場のない感情と
これからも付き合っていくだろう

彼女の背中を通して
君のことを見ることになるだろう

それでもいい

私は君の横を歩けない

それならば、もう

君が君でいてくれたら、それだけで

愛というのはそういうモノだろうか
ありのままを、なるがままを
受け入れられることを言うのだろうか

私にはまだ、わからない

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