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【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#8

第二幕 靴を落とした少女

4:光と影

これからの、彼女との道のりは長くなりそうだとそんな気がした。

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「その服、目立つから、着替えた方がいい。」

消え入りそうな、
その言葉に私は、深くうなずいた。

「わかった。」

そういって、エラは悲しそうにうつむいた。
そして、

「私は、シンデレラだから、あまり近づかない方がいい。」
微かにでつぶやいた。

私は、なんだか物語の結末を知っているがゆえに今、この物語の主人公がこんな思いをしていることがもどかしくて、こう口走ってしまった。

「大丈夫。あなたは将来きっと幸せになる。絶対に。それまでの辛抱だよ。それに、私は全然大丈夫だから。ね?」

エラは、

「ありがとう。」

と困ったようにほほ笑んだ。

エラの選んだ服に着替えると、エラは、もう一度申し訳なさそうな顔をした。
私は、そんなエラの顔を見て、”私は大丈夫だから”という思いを込めて精一杯の笑顔をエラに向けた。
それに気づいたエラは、困ったような笑顔を私に向けた。

にっこりとほほ笑み合っていたら、エラが夜遅い時間になっていたことに気づいた。

「寝るところ、どこがいいかしら。私の隣空いてるわ、ね。」

「ああ。それなら万が一に備えて透明になって、床で寝るから大丈夫だよ。床って言ったって、浮いてるだけなんだけどさ。」

「床じゃ痛い。そんなことさせられない。」

そういってエラは、私とエラでベットを半分こする案を思いついたが、それは、この物語の主人公であるエラに悪いと思って断った。しかし、エラはあきらめてくれず、少しの間、押し問答が続いた。
私は、床の上で浮いて寝る寝心地の良さを詳細にかつ、丁寧にエラに力説した。
その結果、私は、透明人間になって床で寝ることで一応は収まった。

エラが寝静まったころ、私はまだ起きていた。私は、じっとエラの美しい顔をながめながら、この物語の中で過ごす初めての夜であることや、今日起きたことを思い返していたら、いやでも、寝られなくなってしまったのだ。

それにしても、エラの顔は見ていても飽きないくらい美しい顔だな。そりゃ、この国の王子様が見惚れるわけだ。透き通っていて張りがある肌や、くるんとカールが、かかっている長いまつ毛、ぷるんとした艶のあるピンク色の唇。どうやったらこんな劣悪な環境で、この顔を維持できるのだろうかと不思議に思っていたとき。

0時を知らせる鐘がボーンと鳴り響いた。

すると突然エラが、目を覚まし布団から起き上った。

<エラ??>

私は、どうしたのか聞くためにとボタンを触って姿を現そうとしたが、どうもエラの様子がおかしい。先ほど寝る前に見たエラは、温和でとても自信がなさそうな雰囲気をしていたのに、今、目の前にいるエラは冷たくて刃物のような鋭さを持って、圧倒的な自信を感じる。
そして、目が赤い。
エラの目は、輝くような青色だったはずなのに。

エラは、屋根裏部屋にある小さな窓を開けた。
そして、白い鳥が2羽その窓辺に留まった。
次の瞬間、2羽の白い鳥はなんと、エラと話し出したのだった。

白い鳥1「エル様。エル様の言っていた通り、来月に舞踏会が開かれます。そのとき、着るお召し物はどうなさいましょうか。」

「そうね。1日目は、ピンクのドレスで銀の靴を、2日目は、黄色のドレスで金の靴を、最終日は、青いドレスでガラスの靴を用意して頂戴。」

白い鳥2「エル様。このラインナップでいかがでしょうか。」

「そうね。それでいいわ。じゃあ、エラがハシバミ枝の上で、願ったときにそれらを落としていって頂戴。そして舞踏会で、あのクズ女たちに分からせてやるのよ。」

とエルは、憎しみのこもった声でつぶやいた。彼女の、その背中からは、どす黒い憎悪がにじみ出ていた。

私は動揺してその場から動けなかった。

だって、こんな話、私の知っているシンデレラの物語の中には出てきてないから。
こんな、怖いくらいの憎悪を醸し出し、しかも未来を見透かしたように話す彼女に対して、私は足がすくんだ。
そして、彼女はエラだ。エルではない。
でも、今、目の前にいる彼女は、しゃべり方も、雰囲気もまるであの継母と2人の娘みたいだ。
一体何がどうなってしまったの。

彼女は、白い鳥との会話が終わると、静かに窓を閉めてベットに戻っていった。
そうして、彼女はベットに潜り込み、また眠りについた。

私は、頭が混乱していた。
私には、彼女が眠りにつく前とは全くの別人に見えた。
そして、私は、あの彼女と同じ赤い目をした白い鳥が、不幸を運んでくる黒いカラスにしか見えなかったのだった。

私は、その日、一睡もすることができなかった。

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