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【一千文字感想】『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』 造形にもお話にも、デルトロの美学がほとばしっている

*ちょっとネタバレあり


異界のクリーチャー、巨大ロボット、美しき半魚人
デル・トロの作品はどれも独自の美学に貫かれた拘りの造形物たちが登場する。前作『ナイトメア・アリー』では幻想は控えめに、堅実な演出な腕を見せつけたが、その反動は次なるこの『ピノッキオ』で爆発する

なんせストップモーション・アニメだ!キャラクターも背景も、画面に映るその全てにデルトロの美学がほとばしっている

木彫りの質感をあえて残した人形たちが自由自在、表情豊かに画面を動き回る。そもそも『ピノキオ』は木彫り人形の少年が生身の人間になりたがるという話のはずだが、ピノキオ以外の人々もみんな木彫り人形なので見ている側としては「人間になる!」という根本部分が揺らいでしまう。ただし、これはハッキリとデルトロの意図するところだろう。

今回のデルトロによる『ピノキオ』のアダプテーションは原作を正統に映画化したものとは言い難い。その点でディズニー版を忠実に再現したゼメキス版とは決定的にアプローチの違いがある。

今作では時代設定を第二次世界大戦の時代へと変え、それに伴いピノッキオの冒険もその時代に沿ったものへ変更されている。子供に向けた教訓話としての側面は残しつつ、強権的な家父長制ファシズムという『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』なとで繰り返し描いてきたデルトロらしいテーマが注入されている。

もちろんピノッキオに外せない虫のクリケット氏も登場する。ユアン・マクレガーの自己憐憫気味なインテリ演技が素晴らしい。彼は本来ピノッキオの良心を担う役回りだが、この映画で宿るのはむしろゼペットじいさんの方だ。ピノッキオとゼペットじいさんというアトムと天馬博士を連想させる父子関係において、改心すべきは父親の方であるというわけだ。

強権的な父親の有害性を描く反動として、ピノッキオはまだ世間知らずなだけで純真無垢な良い子であるということが強調される。彼はありのままの姿で素晴らしく、彼を型にはめて矯正する必要はどこにもない

子供のありのままの素直さを讃美し、それを無理やり矯正しようとする大人たちを嗜める。そうなるともちろん物語の帰着も変わる

たとえ異形だったとしても何が悪い?
君はそのありのままの姿だからこそ美しいじゃないか。
そう力強く言い切ってくれる。そこがこの監督が信頼に足るクリエイターである由縁だし、これでこそ“ギレルモ・デル・トロ”のピノッキオだ。


ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

Guillermo del Toro's Pinocchio
2022年 / アメリカ / 116分 / アニメーション
監督・脚本 ギレルモ・デル・トロ
Netflixオリジナル作品

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