『ブランチライン』6巻読了と池辺葵作品が好きだという話
注:ここでは『繕い裁つ人』『サウダーデ』『プリンセスメゾン』『ブランチライン』(新刊の6巻含む)の内容に触れています。気になさる方は閲覧をご遠慮ください。
池辺葵『ブランチライン』、6巻が我が家に届いた。
やっぱり柔らかく美しい色づかいの表紙で、それを見るだけで口角が上がる。
今回初めて登場した武人さん、私はかなり好きだ。『ブランチライン』読者のみなさんもお好きなのではないだろうか。
実直で、不器用なような、芯のある人。市江さんを思わせる。それから、仁衣ちゃんを。
山田くんと相性が良いのもわかるなあ、と思った。
それから、繊維工場の描写がとても素敵だった。
いろんな人がいて、資材も細かく描かれていて、好きだなあ、と思った。
私が池辺葵作品にはじめて触れたのは、本屋にあった『繕い裁つ人』を見つけたときだ。
なんだこれ、お洋服の話かな、とファッションが好きな私は軽く手に取った。
読んですぐに、数日かけてではあるが全巻揃えたことを覚えている。
一番好きなのは1巻の182-183ページ。チョコレートケーキがこんなに色っぽい食べ物だと、私はこれを見るまで知らなかった。
素朴な絵柄に、チョコレートの艶がとても映えている。
『繕い裁つ人』の隣にあった『サウダーデ』もついでに揃えて、スパイス入りのメンチカツ、美味しそうだなあと見ていた。
今では私の本棚で再読率の一番高い漫画である。
『プリンセスメゾン』はゆっくりゆっくり、時間をかけて集めた記憶がある。
こんなに一生懸命で美しい子がいるのだろうかと、沼ちゃんのことを思っている。
『ブランチライン』は仁衣ちゃんがスカーフ(?)で髪を結んで、つなぎを着た1巻の表紙が大好きだ。登場人物皆愛おしいが、仁衣ちゃんは格別に好きだ。
我が家にある池辺葵作品は以上なので、彼女の作品全てを所有しているわけでも、読んでいるわけでもない。
けれど、この人の描く物語を私はとても好んでいる。江國香織の作品と同じくらいに。
池辺葵作品には、素直で、底の見えない、窮屈さを抱えた努力家がいる。
それと同時に、あらゆる種類の女がいる。
人を待ち続ける女、どうしても朝起きられない女、結婚を決めようとする女、離婚をした女、人には見えないものが見える女、恋をしまっておく女、お金に不自由していないように見える女、転々と居所を変える女、嫌味に3倍返しくらいできる女。
そのすべての女を、池辺葵が愛を込めて描いたのだとわかる。
どの女も素晴らしく魅力的で、可愛らしく愛らしく、美しい。
そんなものを見ていると、私も愛らしく美しい存在なのだろうか、と思ってしまう。
即座に、いやあなあ、そんなことはなあ、とも思う。
多分、そんな姿も池辺葵は否定しない。
きっと、どこかしらに可愛らしさを見つけ、とっておきの呪文をかけたみたいに、私のことを描いてくれるだろう。
どの人間にも、愛らしく美しい部分があるのだと教えてくれる。
だから私は彼女の作品を好んでいる。
そして、出てくるお洋服がどれも格別に美しい。
丁寧で、細かく、繊細である。
私に洋裁の技術があったら片っ端から作ってみたくなるくらい、どのお洋服も愛が詰まっていて、愛されて描かれたんだね、と思う。
それも彼女の作品を好きな理由の一つだ。
そして、少し弱っているときでも、元気な時でも、いつでも読める。
これは本棚に置く作品において非常に重要なことだ。
物語を欲していても、読める物語がないというのは悲しい。
寄り添う、なんて言い方は彼女の作品にはしっくりこない気がする。
ただ淡々と、物語の中で登場人物たちは生きていて、その姿を見て私たちは自分の生きるリズムをほんの僅かゆるやかにできる。
だから、好きだ。
『ブランチライン』の物語はこれからどう運ばれていくのだろう。
きっと、今までの作品と同じように、「もっと続いてくれ……!」と思いながら最終巻の最終ページを読むのだろうな。
そんな気がする。