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眠れない夜のための短歌集


春の宵遠い記憶を振り返る手に持つペンは止まったままで

会いたいと書くより他に伝えたいことなどなくて仕舞う便箋

置き場所が定められたる幸運を妬む日もありパズルを崩す

暖房のゆるいぬくさで狂い咲くヒヤシンス今日向を感ず

オリーブ油(ゆ)白く濁れり幸福は夢と知る時齢(よわい)三十(さんじゅう)

やわらかな毛布をかけてサヨナラと鉛筆で書く筆跡強く

目に触れることのなかったメモ帳のサヨナラの跡なぞる指先

傷つけて傷つけられて桜花(さくらばな)あなたの影を踏むこともない

右肩に愛と思しきものがあり山手線をもうひとまわり

紺色のドレスを選んだ彼女とは朝顔染めを共にした仲

神様はいつも彼女のそばにいて私のことは背景程度

触ってはいけないものが愛おしい画鋲、かさぶた、あなたの背中

いつの日か光を浴びて甦れ桜の下の恋の亡骸


最上(さいじょう)の瞬間(とき)はいつでも蜃気楼撮れど残らず逃してばかり

生活を始めることの高揚を包んで食べるオムライス様

あれもあるこれもしなくちゃだからまだすきになってはいけないこまる

なんだっていいからキレイなものだけをたくさん眺めて世界を綴じたい

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