[ドラマレビュー]いつかこの雨がやむ日まで(2018/日本)
あらすじ
15年前に兄が犯した殺人ですべてを失い、汚泥の中を這いずるようにして生きてきた主人公・ひかり(渡辺麻友)。兄を憎みながら半ば正気を失った母とふたり暮らしている彼女の唯一の希望はミュージカル俳優になる夢。その夢に向かって日々稽古に打ちこんでいたが、兄の出所を皮切りに劇団で殺人事件が起こる。ひかりが所属する劇団ウミヘビの看板女優が殺されたのだ。それは、15年前の事件を彷彿とさせるものだった・・・。
キャスト
北園ひかり 渡辺麻友
ひかりの幼なじみ・和也 堀井新太
劇団ウミヘビの座長・天竺要 吹越満
ひかりの母 斎藤由貴
ひかりの兄・國彦 桐山漣
國彦の恋人・麻美 三倉茉奈
麻美の姉 星野真里
和也の恋人・沙耶 筧美和子
要の娘・芽衣 宮澤エマ
テーマは芸術の恐ろしさと美しさ
まず、この作品は単なる愛憎ドロドロのメロドラマではない。推理を楽しむミステリ要素もあるが、何より圧倒的に強調されているのは芸術に憑かれた人間の狂気と美だろう。
芸術の象徴としての天竺要
ひかりが所属する劇団ウミヘビの創始者であり監督の天竺要は文字通りストーリーの要となる人物。
美大で燻っていた頃訪れた海外でのとある経験から舞台芸術に開眼し、ひたすら芸術の道を追求する。
その鬼気迫る姿は怖いものがあり、自らを芸術の奴隷と称する通り全てをかけてロミオとジュリエットを完成させようとする。
天竺を魅了するひかりの闇
天竺はかつて看板女優の死で幕を閉じた伝説のミュージカル、ロミオとジュリエットの再演を熱望していた。
その彼が完璧なジュリエット役として見出したのが主人公のひかりである。
兄の犯した殺人事件で父を亡くし、正気を失った母とふたり残され、文字通り地べたを這いずって生きてきたひかりの抱える圧倒的な闇が、完璧なジュリエットを求める天竺を魅了する。
天竺の求めるジュリエットは、無垢で綺麗な少女ではないからだ。彼にとってのジュリエットは、全てを失う本当の絶望を知った女。そしてそれを表現するには表現者自身が全てを捨てて本当の絶望を知らねばならないと言う。
極端にも思えるこの要求に、はじめひかりは応えようとするが・・・。
まとめ 結末以外は超良作
ネタバレになるので詳細は差し控えるが、監督、作家、音楽、役者陣共に秀逸だったこの作品に唯一瑕があるとすれば、結末だろう。
謎解き要素、昼ドラ的ドロドロ要素もありつつメインテーマを芸術の追求、すなわちミュージカル、ロミオとジュリエットの完成においた、非常に優れたドラマだったのに結末だけがどっちつかずで残念だった。
完全にロミオとジュリエットになぞらえるのか、そこから脱却するのか。
ひかりの最後のセリフは確実に後者であるのに、結末が伴っていない。
ひかりが一度は囚われ、脱却したものの象徴は天竺要ではなかったのか。幼なじみの和也はむしろその対極、希望と未来の象徴ではなかったのか。
ここだけがどうしても納得できなかった。
しかし全体としてそれ以外は非常に秀逸なドラマだった。役者も粒揃いでよかった。
暇つぶし以上になる、オススメの一作です。
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