見出し画像

鉄緑会占有率で考える、東大の学部難易度比較

 東大には入試時点で6つの区分けがある。文科一類から三類と理科一類から三類である。これらの入試難易度は異なると言われている。突出して難しいのは当然理科三類である。他の学科に関しては一概に比べることはできない。文理の比較は原理的に難しいし、同じ系統であっても科類によって採点基準が異なるという噂があった。合格最低点で文科一類と文科二類が逆転したというニュースが一時期話題になったが、実際には逆転はまだ起きていないという説も根強い。
 東大の科類難易度を客観的に比較するためには何らかの指標が必要だ。今回ツールとして注目するのは「鉄緑会」である。

  鉄緑会、それは最難関大学入試を語る上で欠かせない恐怖の進学塾である。生徒の大半が御三家レベルの難関中高一貫校に在籍しており、東大理三の合格者の大半は鉄緑会の出身だ。
  日本の成績上位者を鉄緑会が独占していると考えれば、鉄緑会出身者の多い大学=偏差値の高い大学という図式を考えることができる。今回は鉄緑会通塾率を指標に東大の難易度を考えてみようと思う。

2023年の鉄緑会合格実績

 以上の図は2023年の鉄緑会の合格実績から算出した東大の各科類の鉄緑会占有率である。ダントツで高いのは理科三類だ。首都圏から現役で東大理三に合格するのは50人程度なので、鉄緑会は合格者の大半を占めていることになる。恐ろしい割合だ。理科三類に合格するためのメソッドは鉄緑会が独占しているといっても過言ではない。

 次いで高いのは文科一類で、理科一類、文科二類、理科二類と続く。文科三類はかなり占有率が低い。

 各年変動の可能性もあるので少し前の2019年のデータを見てみよう。

2019の鉄緑会合格実績

 なんと科類ごとの順番は2023年とほとんど変わらない。他の年度も文科二類と理科二類が度々入れ替わることを除くとほぼ同じだ。鉄緑会の合格実績は極めて安定しており、その点でも指標としての有効性は高い。

2019〜2023の平均

 過去5年間の平均を取るとこのようになる。理三>>>文一>理一>理二・文二>文三という順番はどの年度でも安定している。したがって東大の科類のレベルはこの順番である可能性が高い。伝統的に言われている序列と大体同じである。近年東大理系のレベルが東大文系を圧倒しているのではないかとの噂があるが、鉄緑会占有率を見る限りは、まだそこまでの差はないということになる。
 もっとも最近は東大理一の難化が指摘されている。実際に東大理一の鉄緑会占有率は上昇傾向にあり、文一との差が年々縮まっている。現在の情報工学を中心とした理系ブームを考えると文一と理一の逆転は近づいている、あるいは既に起きているかもしれない。

 文科一類は鉄緑会占有率が二番目に高い。確かに文一は鉄緑会に通っていた生徒もいた。鉄緑会は文一に合格するにはかなりオーバーワークなので、鉄緑会で真面目に勉強していた人はかなり上位で合格している人が多かった。彼らは合格と同時に伊藤塾に入って在学中に予備試験を突破し、黄金のエリートコースを走っていく。サピックス⇒鉄緑会⇒伊藤塾という受験サラブレッドだ。
 しかし、こうしたサラブレッド人種はせいぜい文一生の20%程度だ。実際には地方公立からすんなり合格した人、浪人中に伸びた人、E判定から逆転合格した人がかなり多い。理三を始めとした超難関医学部と比べるとかなり多様性に富む。

 理一となると、今度はロクに受験対策をしていないのに上位合格する本物の天才が散見される。数オリ出場者などがそうだ。上位層は理三合格者のレベルを遥かに超えていることは間違いない。彼らはどういう頭の構造をしているのだろうか。大学院レベルの数学はこうした天才に任せたい限りだ。
 理一はボーダー層と上位層の格差が極端で、ひょっとしたら日本で最も学力差の大きい学科かもしれない。
 
 理二と文二に関しては特に特筆すべき特徴がない。比較的地味な科類だ。文三は明確に難易度が低いと思われるが、実際のところは分からない。上位進学校、特に男子校からの進学は少ない。

 鉄緑会占有率が最も高い学部は実は東大ではない。東京医科歯科大学医学部である。医科歯科の鉄緑会占有率は60%近い。一学年の半分が鉄緑会本校の出身ということになる。これは医科歯科が首都圏の有名中高一貫校の出身者が大半を占めること、理三不合格者や断念組が多く流れることが原因だろう。
 同様に慶医や千葉医、大阪校も含めれば京医・阪医・京府医も同様に鉄緑会占有率は東大一般学部よりも高い。東大専門塾と謳いながらも鉄緑会のカリキュラムは東大に合格するにはかなりオーバスペックだ。鉄緑会のターゲットは東大というよりも、理三・慶医・医科歯科といった超難関医学部と考えたほうが実態に即している。

 こうした超難関医学部は中学受験で有名中高一貫校に入り、鉄緑会で受験勉強を頑張った者が大半を占める。現役率も他の医学部より高い。そして卒業後は全員が医者になる。東大一般学部と比べても、極めて均質性の高い環境と言えるだろう。学生時代に地方出身者や浪人生とばかり遊んでいた私としては想像もつかない環境である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?