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<地政学>国力の三要素で考える、日本の国力が衰退していく地政学的な理由

 日本の停滞は長年言われているが、これは地政学的な観点からも色々と裏付けられることだ。まず前回の記事では国力とは何かを考えた。

 これをもとに考えると、日本の国力は他の大国と比べて今後衰退していく可能性が高く、しかもそれを止める手立てはほとんど存在しないことが分かるだろう。今回は日本の国力が衰退する理由を考えていこう。

国力の三要素

 前回の記事で国力とは「領土」「人口」「経済水準」の三要素で説明できるということを論じた。日本の場合はどうだろうか。

 日本は明治時代に工業化を開始し、目覚ましい勢いで成長していった。工業化が進むと同時に日本は広大な植民地を持つようになり、1942年にはアジアの大半を支配する大帝国になった。

 敗戦で日本は海外領土をすべて失い、タダの島国になる。この時点で日本の領土は大幅に縮小したため、日本の国力は低下した。しかし、そのかわりに高度経済成長が発生したため、日本の経済水準は大幅に増強され、日本の国力は戦前を上回るようになった。これが日本の奇跡である。

 ところが、日本は近年深刻な少子高齢化に悩んでいる。このままでは国力はどんどん衰退してしまう。日本が国力を増加させる、あるいは衰退を食い止める方法は①領土を増やす②人口を増やす③経済水準を上げるの3つとなる。

 ①はどう見ても不可能だ。パックス・アメリカーナの時代に帝国主義をやって国土を拡大させるなど現実的ではないし、その場所もない。韓国や中国を征服するというのか?そんなことをすれば日米同盟は崩壊するだろう。第一中国を侵略して勝てる見込みもない。勝ったところで統治ができないだろう。

 ②に関してだが、これまた日本は難しいだろう。日本は移民への忌避感が強いからだ。日本は移民受け入れに関して文化的に遅れているので、移民争奪戦で大変不利である。日本と文化的に似ている東アジア諸国はどこも少子化しているだろう。また、日本が移民受け入れ能力が低いということが更に移民への拒否感を高めるだろう。引く手あまたの移民労働者は日本になど行かないからだ。結果として日本に来てくれる移民はアメリカやドイツに行けない人ばかりという結果になりかねない。

 ③はどうか。これも難しいだろう。先進国はある種の技術的フロンティアにあり、経済水準は頭打ちである。景気動向はあれど、先進国の経済水準はどこもそこまで変わらない。せいぜい10%〜20%の違いに過ぎない。これ以上経済水準を上昇させるには油田を掘り当てるか、タックスヘイブン化するしかないが、日本にはどちらも望めない。両方とも小国向きのやり方だからだ。アメリカの経済水準は他の先進国よりも3割ほど高いが、これは覇権国家としての特殊な性質と大きすぎる国内格差によるものであり、日本が真似できるものではない。

 というわけで、日本の国力を増加させる手段はほとんど存在せず、少子化問題を打ち消すほどのパワーはない。今世紀末の日本は現代よりも遥かに弱い国になっているはずだ。

他の国はどうか?〜東アジア編〜

 ところで日本以外の主要国はどうだろうか。結論から言うと、日本ほど活路がない国は少ない。

 まず韓国だが、この国の少子化問題は日本以上に深刻だ。ただし、韓国には①の領土を拡大するという最終手段がある。要するに北朝鮮との統一である。統一に成功すれば(可能性が高いとは言えないが)韓国の若年人口は倍以上に増えることになる。北朝鮮はあまりにも貧しいため、統一すれば経済成長の余地が沢山残っているだろう。南北統一が円滑に進んだ場合、韓国は国力の低下を補うことができるはずだ。

 中国はどうか。中国もまた深刻に少子化に悩んでいる。この国はあまりにも人口が多いため、領土を増やしても移民を増やしても焼け石に水だ。しかし、中国経済は減速しているとは言えまだまだ伸びており、経済水準を上げる余力は残っていると考えられる。中国の経済水準は今のところメキシコくらいだが、このまま行けばロシアと同程度くらいまでには上がるのではないかと思われる。

 香港やシンガポールといった先進諸国は深刻な少子化に進んでいるが、これらの国は少子化が大して問題にはならないだろう。中国本土からの移住希望者が後を断たないだろうからだ。都市国家ならではの強みと言える。台湾は微妙ではあるが、中国本土からの移民を引き付ける力は日本よりも遥かに強いだろう。

 というわけで、少子化に伴う国力の減少を補う方法は韓国の場合は領土の拡大、中国の場合は経済水準の上昇、他の中華系の国の場合は人口の社会増ということになるだろう。これらの政策が成功するかはわからないが、可能性が無いわけではない。日本はこうした選択肢が全く望めないので、これらの国よりも状況は良くないだろう。

他の国はどうか〜それ以外編〜

もう少し離れた国はどうか。

 超大国アメリカ合衆国は安泰である。この国は世界中から移民を惹きつけているので、少子化知らずだ。北米大陸は22世紀になっても持続的に人口が増え続ける唯一の地域とも言われている。領土と経済水準は頭打ちだが、人口動態を生かしてアメリカの国力はこれからも右肩上がりである。同様の特徴はカナダ・オーストラリア・ニュジーランドと言った移民国家にも言える。

 アメリカほど恵まれているわけではないが、西欧諸国も日本よりは国力を拡充する余地があるだろう。欧州最強国のドイツは日本同様深刻な少子化が起きている国だが、欧州の中心地であるため、大量の投資を呼び込むことができる。EUがいわば「準領土」のような状態だ。また、ドイツへの移民は年々増えており、人口動態の観点ではまだまだ大丈夫そうだ。イギリスやフランスといった国もやはり移民の移住先としては人気であり、人口減少を補うことは可能と思われる。

 日本同様に国力を伸ばしにくいのがロシアである。ロシアもこれを自覚していたのか、ウクライナに軍事侵攻して領土を拡大しようとしたが、歴史的失敗に終わった。ロシアの国力は衰退していく可能性が高い。しかし、ロシアの場合は少子化が日本ほどの問題にならないだろう。ロシアの産業は石油をはじめとする一次産品に集中しているからだ。これらの産業はあまり雇用を生まないので、人口減少が深刻化しても歳入は減らない。むしろ経済水準の上昇を伴う可能性もある。ロシアの場合は怖いのは少子化よりも国家の分裂だろう。

日本は詰んでいる

 というわけで、主要国は国力を伸ばす余地が十分にあり、日本ほど詰んでいる状態ではないということだ。もちろんこれらの全てが実現するわけではないので、日本同様に衰退していく国も多いだろう。ただ、日本の場合は実現可能性が無いという点で劣っている。少子化の穴埋めをできるくらいに日本の国力を伸ばす地政学的方策は存在しないのだ。

 日本以外でこのような状況に陥っている国はイタリアくらいしか見当たらない。東欧諸国は人口が流出しているが、経済水準の上昇はまだまだ見込むことができる。タイやメキシコも経済水準が上昇する可能性はゼロとは言えないだろう。日本は本当に手段が見当たらない。したがって21世紀において確実に国力を減らす国と言えるだろう。

 ただ、日本の衰退は考えられているよりも問題にはならないのではないかと思われる。国民にとって重要なのは国力よりも経済水準である。日本の経済水準が下がる根拠は特に無い。人口減少は問題を作り出す一方で一部の問題を緩和するだろう。心配なのは国防だが、日本は海によって守られており、アメリカと同盟を結んでいる。中国がこれ以上強くなったとしても、少子化という問題はあちらの方が深刻である。今世紀末の日本の国力はイギリスと同じくらいになるだろうが、国家総力戦でもしない限り、深刻な事態にはならないかもしれない。

 政治家や評論家は統治者の側からものを考えるため、国力にフォーカスするが、国民の暮らしにとっては経済水準の方が重要である。人口が多くても、領土が広くても、個人の人生にとってはどうでもいい話なのだ。社長が売上拡大を求めるのに対し、社員は賃上げを求めるのと同じである。日本が小国になったとしても、豊かに暮らせるのなら別にそれで良いだろう。

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