首都圏の難関高校受験事情

 首都圏の高校受験事情について振り返ってみたいと思う。私が受験をした2010年代前半と現在では構図がやや変わっているので、回想という性質が強くなる。

 まず、前提として首都圏の難関高校受験のパイは中学受験に比べて遥かに小さい。全体としては高校受験を行う生徒が大半なのだが、こと上位層に限ると大半が中学受験で抜けてしまうため、高校受験の層は薄いのだ。東大合格者の出身校から推計すると、首都圏難関高校受験の母集団は中学受験の3分の1程度と思われる。奇しくも筑駒・開成の中入生・高入生比率と同じである。 

 私の時代は首都圏の高校受験において、上位四校が飛び抜けて上位に君臨していた。それは国立附属の筑駒・筑附・学大附と開成である。その次に君臨するのが早慶附属だ。そしてその下に都立日比谷を始めとした公立進学校が位置していた。上位四校は5教科入試だったが、早慶附属は3教科入試で、公立進学校は5教科入試だったものの、易問傾向が強かった。中学受験は4教科難問揃いだったが、高校受験で5教科難問スタイルを取っているのは国立附属・開成といった最難関校に限られ、残りの私立高は3教科入試、公立校は5教科易問型の軽量入試となっている。

 中学受験で難関である麻布・武蔵・駒東・海城・栄光・聖光・桜蔭・JGなどの学校は軒並み高校募集を行っていない。中学受験で有名な中高一貫校のうち高校募集を行っているのは筑駒・開成・渋幕のみで、しかも募集人数が中入生の3分の1だ。見かけはかなり狭き門に見えてしまうだろう。このあたりもパイの少なさを示している。

 上位四校の難易度はとにかく飛び抜けており、これは1970年代から変わっていないようだ。昔は武蔵もこの並びに入っていたらしいが、1990年代に高校募集を廃止したため、消えている。国立附属は都立が没落した1970年代に凄まじく偏差値が上がり、伝統的に首都圏高校受験で一番ステータスが高かった。難易度は高いが、これらの学校に合格できれば東大は目と鼻の先であり、ぜひとも頑張りたいところだ。

 上位四校の間の上下関係はやや変則的だ。当時の偏差値では筑駒>開成≧学大附≧筑附だった。中学受験と同様に筑駒と開成の間には明確な上下関係があり、両方合格した生徒はほぼ全員が筑駒に進学した。しかし、筑駒の学区が東京・神奈川に限定されているため、埼玉・千葉の優秀層は開成に進学していた。開成と学大附・筑附では開成がやや難易度が高いが、開成を蹴って国立附属に進学するという者はかなり多く、明確な優劣は無かった。時代によっては学大附・筑附の方が優位だった時もあるらしい。また、学大附は神奈川の生徒が、筑附は埼玉・千葉の生徒が進学することが多かった。筑駒・開成は男子校なので、女子の最優秀層は学大附か筑附に進学していた。

 なお、渋幕に関しては試験日の問題で国立附属・開成の志望者の腕試しという側面が強く、実際の進学層とはズレが大きい。ここは中学受験と同様だ。過去問と合格最低点の関係を見ていても、渋幕の位置づけは恐らく筑附よりも下だろう。渋幕はどうしても開成と県千葉に生徒を取られるので、超進学校になるのが難しくなっている。

 問題だが、開成はこれまた中学受験と同様に大手進学塾のテキストに出てくるような問題が多く、テクニカルな感じだった。筑駒は中学受験のような異常な難問ではなく、高度な知識を使わないシンプルな問題だった。ただし、時間制限がやたらと厳しい。学大附も似たような感じだ。筑附は全く問題のクセが合わなかった。上位四校は五教科難問のフルセットで、純粋な科目数ではかなり幅広いと思う。筑駒・開成志望者の高校受験のノリは中学受験とそこまで変わらないので、中学受験組とそこまで感覚の乖離はなかった。大手進学塾が焦点を当てているのはなんといっても開成で、筑駒は開成にある程度自信を持てる人が参戦する決勝戦のような位置づけだった。

 私は腕試しに灘高の問題を解いたこともあるが、異常な難易度だった。あの学校は関西志学館のような専門の進学塾に行かないと合格できないのではないか。いつも模試が1位のやつがいたが、彼は灘に進学していた(東大で会った)。東大寺学園も当時はまだ高校募集が生きていたので、開成と同じくらいの偏差値だったと思う。

 その下に位置するのが早慶附属だ。早慶附属は難問型ではあるものの、3教科入試であり、国立附属・開成に比べると負担は少ない。早慶附属を目指す層はかなり厚く、激しい戦いが繰り広げられているらしい。らしい、というのは私が当時から明確に東大志望で、早慶附属の情報に触れる機会が少なかったからでもある。早慶附属のうち、最も難易度が高いのは慶応女子で、開成に準ずるレベルとされる。3教科入試の慶応女子と5教科入試の学大附・筑附のどちらが難しいかは微妙だった。高校受験の女子最難関校はどうにもはっきりしない。続いて難易度が高いのは慶應志木だ。この学校のステータスは塾高より低いが、併願の関係で偏差値が非常に高い。続いて塾高・早大学院・早実が続く。早稲田本庄は地理的理由でもう少し下がる。慶應湘南藤沢は高校募集が存在しない。

 高校受験では早慶附属の募集が多く、しかも重要度が高い。中学受験と違って高校受験ではある程度学力が固まってきてるので、東大・医学部志望でなければ早慶附属に行ってしまおうという家庭が多い。ありがちな併願パターンはチャレンジで上位四校を受験し、受かったら東大・医学部志望、落ちたらそのまま早慶にエスカレーターというものである。ただし、東大にどうしても挑みたい場合は公立に行くか、中堅の私立に行くかしかない。

 その下に位置するのが公立進学校である。都立の場合、日比谷≧西≧国立が都立御三家となっている。戸山はやや下がる。神奈川県であれば翠嵐・湘南、埼玉であれば浦和、千葉であれば県千葉が有力な公立進学校だ。この辺りの学校は東大でもかなり見かける。

 公立進学校の受験はかなり面倒なことになる。公立進学校は易問型であるため、難関校向けの勉強とは異質だ。例えるならばセンター試験だ。それに公立進学校は内申点という非常に厄介な制度が存在する。難関国私立の対策と公立進学校は全く違う世界であり、私の周囲にはこの手の学校を第一志望として対策している人間は見かけなかった。恐らく通っている塾の種類が異なるのだと思う。

 公立進学校の際立った特徴は時代によって大きく立ち位置が変わることだ。1960年代はトップに君臨していた都立高だが、学校群制度で凋落し、1990年代には中堅私立進学校よりも下の位置づけとなっていた。ところが200年代の改革でこの向きは反転し始めた。私が受験した2010年代前半辺りにネット上に都立高を称賛し、国立附属・開成を批判するサイトが突如乱立し始めたのだが、当時の塾の関係者は「そんなわけないだろう」と言っていたのを覚えている。ところが2016年頃から日比谷高校がかなり躍進を遂げ、有名進学校の仲間入りをするようになった。

 変わって凋落したのが2016年のイジメ事件をきっかけに没落した学大附だ。現在では公立トップ校の滑り止めとなっているらしい。私の時代の感覚では信じがたいが事実のようだ。昔だったら学大附に行っている層が現在は日比谷・翠嵐に流れているらしい。埼玉・千葉方面は動きが少ないので筑附はまだ凋落していないが、それでも昔よりも凋落が進んでいるようだ。

 日比谷ファンによって開成はいつもやり玉に挙げられ、この手の主張を繰り返す謎のサイトがネット上にやたらと増加している。理由は良くわからないが、「開成の学校行事の醍醐味は中学からでないと味わえない」と日比谷高校の関係者が主張する奇妙な事態となっている。あれ本当に誰なんだ。

 実際に開成を辞退して公立校に進学する者は毎年一定数存在しているらしい。ただし、開成が凋落する危険性は低いだろう。中学受験の延長で学校を考えている人間にとって開成は憧れの的だ。また、開成を辞退して国立附属に進学する生徒は一定数存在し、彼らが現在は日比谷に流れていると考えられる。開成の凋落、もしくは高校募集廃止は起きないと個人的には予想している。都立高が海城や学大附に匹敵する偏差値に追いついたとしても、開成に追いつくのは不可能だからだ。現時点でも日比谷の偏差値は開成はもちろん、早慶附属よりも低い。また、浦和は男子校であるため、県千葉は附属中を作ったため、開成との差別化が測れず、埼玉・千葉からの生徒は相変わらず開成に吸い寄せられるだろう。

 なお、高校の偏差値といった時には注意が必要だ。みん高を始めとする巷に出回っている偏差値表は公立向けのもので、難関私立の偏差値を測るには不適当だからだ。中学受験の偏差値と高校受験の偏差値は10違うと言われる時があるが、あれはそもそも模試の対象を適切にとらえていない。駿台やSAPIXの模試の偏差値を見ると中学受験と感覚があまり変わらないだろう。筑駒が72で、開成が68で・・・と言った具合だからだ。私は学校に言われて一般層向けのVもぎという模試を受けたことがあるのだが、駿台で偏差値50代のMARCH附属がV模擬では偏差値70オーバーになっていて、驚いたことがある。世の公立中のレベルはどうなっているんだ。



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