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万年筆はかっこいい大人のアトリビュート

 ジェルボールペンのサラサマルチの替え芯を買ったつもりが、届いたのはサラサクリップの芯で「ひえぇぇ~」となっていた頃、実はもう一つ、別のペンが我が家にやって来ました。

 MONAMI の OLIKA という万年筆です。

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 小説や哲学書などに囲まれた静かな書斎で、アンティーク調の机に座り、考えを巡らしては万年筆を手に取る思慮深い大人。それが、小さい頃に想像していたかっこいい大人でした。大人と言われる年齢になって久しい今も、それは変わりません。無論「実際にそう成れているのか」という問いには、ハッキリと「No」と言うよりほかないわけですが、まあここで何が言いたいかというと、わたしのとって万年筆は、大人のアトリビュートだということです。

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 昨年の夏、いよいよ大人の世界に仲間入りしようと思い、ソウルの光化門(광화문)にある教保文庫(교보문고)へ足を運びました。

 ブランド品からそうでないものまで様々な価格帯の商品が並んでいましたが、未だ万年筆未経験者のわたしが高価な買い物をするわけでもなく、できれば1000~3000円のものをと思いながら、歩き回っては試し書きを繰り返していました。

 ただ、気に入ったものはなかなか見つかりません。

 理由はさまざまで、デザインが魅力的でなかったり握った感覚がしっくりこなかったり。心配していたように、インクがにじんでしまうものもありました。これなら良いかなと思うものもありましたが、残念ながら、予算とは不釣り合い。そうしているうちに段々と、普段使っているペンで充分な気がしてきて、結局、購入しませんでした。

 そんなことを韓国人の友人に話していると「高級な万年筆じゃなくていいなら、OLIKA を使ってみれば?」と言われました。わたしより5,6歳年上の彼女は、その OLIKA という万年筆を、学生の頃に使っていたそうです。

「万年筆ってどうしても高くなっちゃうけど、やっぱり一度は使ってみたいじゃない。ただいきなり何千円、何万円も出して買う余裕はないし、買ったけど結局使わなくなったじゃもったいないし。安い値段で試しにって言うなら、OLIKA はそれほど悪くないと思うよ。万年筆には珍しく、インクの色もたくさんあるしね」

 電話を切って調べてみると、3000ウォン(=約300円)の万年筆でした。ネットで買うなら2000ウォン。なんとまあ、安いこと。テレビショッピングの客席にいるおば様方も驚きです。色は定番の黒や青だけでなく、赤、黄、緑、紫、ピンク、オレンジなどもあり、まるで蛍光ペンを眺めているようでした。

 しかし人というのはまったく我がままなもので、ここまで安いと万年筆の魅力の一つである、誰の手にでも届くわけではない高級感が失われた気がしました。また多彩な色揃えも、むしろマイナスに映りました。カラフルさは天真爛漫なこどもを想像させます。万年筆が欲しい理由は、かっこいい大人に近づきたいからで、それはおままごとではないのです。

 結局、万年筆探しは、一旦やめることにしました。

 それから数日して、突然、韓国人の旦那が OLIKA の万年筆を持って帰宅しました。どうやら職場でもらったそうです。

 その頃にはすっかりと冷え切ってしまっていた万年筆への情熱でしたが、これをきっかけに、まるで小さなろうそくに火が灯るようにふたたびポッと燃え始めました。

 使ってすぐに思います。「おままごととか言って、ごめんなさい」

 それは想像していたよりも遥かに滑らかな書き心地で、久しぶりに手書きで自分の名前を書きたいと思いました。悪くない、まったく悪くない。またさらさらとしたインクは、紙にもよりますが、それほどにじみません。たしかに、一度手軽に使ってみたいという初心者には打ってつけの万年筆です。しかも、これにカートリッジインクが2本も付いて2000~3000ウォンとは。

 もう一度言いますね。「おままごととか言って、本当にごめんなさい(そして、おままごとにも、悪い言い方しちゃってごめんなさい)」

◇◇

 その日以降、メモ書きには OLIKA を使うようになりました。そしていつかもっと大人の余裕が出てきたら、もう少し本格的な高級感漂う万年筆に挑戦したいと思います。

 はい、かっこいい大人像への憧れと夢は、捨てていませんよ。

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 日本でも購入できるか探してみたところ、Amazon や楽天で注文できるようでした。ただ輸入となるため、お値段は高めのよう。韓国にいらっしゃる予定のある方でご興味がおありでしたら、ぜひ現地でご購入ください。

 小さい頃にこのセットを貰ったら、かなり嬉しかっただろうなあ。


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